もしかしたら私は真面目かもしれない

二八 鯉市(にはち りいち)

もしかして私は真面目なのか?

 「もしかして私は真面目なのかもしれない」

なんだか最近、そう思うことが度々たびたびある。


 先日、長編小説をひとまず10万字書き終えた時のこと。

 咳をしても一人、10万字書いても一人。望んだ孤独を謳歌する私は、一人で思う存分打ち上げをすることにした。


 一人カラオケである。


 一人カラオケは楽しい。どれだけシャウトしてもデスボ出してもいいのだ。


 さて、ここ数か月溜まっていた「カラオケ行きたい欲、めっちゃ歌いたい曲欲」が満たされたところで、私はちょっと調子に乗った。

 採点機能をONにしたのである。

 「ま、今の自分の状態を見てみますかね、っと」

と、腕をぐるぐる回し、首と肩をボキボキ鳴らし、ちょっともう今の自分なら全世界ツアーできちゃうんじゃない? 私の歌声でオーディエンスは感涙なんじゃない? ぐらいの気持ちで採点をした。


 結果は、惨敗であった。


 穴があったら入りたいというか、どこでもいいから入りたかった。

 かくして夢の世界ツアーまでの道のりは遠いことが分かった私は、その日の夜、もやもやと燻る衝動のまま、グーグルにこのような事を聞いた。


「歌 上手くなり方」

「音程 合わせ方」

「音程 練習」


 そして後日そこには、課題曲を一曲決め、ピアノアプリを用いて音を確かめ、ピアノの音に合わせて発声し、そしてまたキーボードをカタカタさせ、


「裏声 出し方」

「裏声 強くする」

「裏声 地声 違い」


で検索する私の姿が。


 そしてふと、気づいたのである。


 「?」


 とはいえである。

 「自分で自分の事を真面目と認めるのって、なんか難しくないか?」

 個人的には、「私、真面目なんですよ」って、はたして自称で言うことなんだろうか? という疑問があるのだ。

 もしも初対面の相手に「私、真面目なんですよー」って言われたら、「へぇーそうなんですかー」と言いつつ、内心は「ふ、ふーん……?」と思いそうである。


 だがふとコレを書いていて思うのだが、

「私、結構締め切り守るタイプなんですよねー」

って言われたら、その場合は「おーすげぇー」となる。

 ここに関しては「ン? 締め切り守る人って締め切り守るって自分で言うか……?」などとわざわざ立ち返って疑ったりなどはしないのだ。


 さらに書いてて思ったのだが、

「私、真面目なんですよねー。『塩コショウ少々』とかめっちゃ考えちゃうんですよー(笑)」

って言われた場合、「あぁーそれは真面目だなぁ(笑)」と素直に返せる気がする。

 これも、「塩コショウ少々に悩む人って自分で言うか……?」などと疑ったりしない。へーそうなんだろうなーと思うだけである。


 成る程。やはり、「締め切り守る」にしろ、「塩コショウ少々に悩む」にしろ、具体的なエピソードがあると、「あぁそうなのね」と素直に納得できる気がする。

 そう、「真面目」って、字面も響きも硬いのに、意外と概念としてはフワッとしている気がするのだ。


 さて、「え、もうここまで読んで思うけど、二八さんって真面目じゃん」って思う貴方へ。


 このエッセイにおける結論としては、『真面目って存外フワッとしていて、曖昧なもの』なのである。

 「これをすれば真面目、これならば真面目」

という定義は恐らく、ない。


 だって、私が

「カラオケで思ってたより点数伸びなかったから、課題曲を決めてピアノで1つ1つ音をとって夜な夜な練習した」

ってエピソード聞くと、

「え、真面目じゃん」

って思うじゃん?


 これ、のである。


 世の中一体、何が真面目で何がそんなに真面目じゃないのか。


 ひとまず今後私は真面目を自称する時、

「気が向いたら真面目です」

「ところどころ真面目です」

とでも名乗りたい。



 <終>

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