第9話
昨日の夜、家に帰るなりすぐにお母さんに明日は絶対お弁当準備してね!と声をかけた。私のお母さんは朝が弱いから、絶対お弁当が必要な日は前日までに報告するのがルールだ。お母さんが無事に朝起きれたときはお弁当だけど、週に3回きちんと起きれたら良い方なので基本的には食堂に行くことが多い。
友達も食堂で食べる子が多かったから特に遠足の日とかでなければ報告はしなかったけど、今日は食堂に行くわけにはいかないので帰宅してすぐに台所へ声をかけたのだ。
朝は、お母さんのお弁当を作る料理の音で目覚めた。いつもはスマホのアラームと戦いながら起きているが、お弁当の日の自然に起きれるこの感じはとても好きだった。
ほのかに香る朝ごはんの匂いを辿りながら階段を下りる。朝ごはんはいつもトーストを口に押し込むだけで適当だけど、お弁当がある日はお弁当の残りが朝ごはんになるからいつもより豪華になる。台所で料理をしているお母さんにおはよう、と声をかけると「おはよう、今日は早いね」と返された。時計を見るといつもより少しだけ早く起きたことに気づいた。
朝ごはんの内容は、湯気の出ているごはんとお味噌汁、お弁当に入りきらなかったのであろう卵焼きとソーセージだった。これぞ、日本の朝ごはんです。と言わんばかりの内容に思わず笑みがこぼれた。
いつもより早く起きれたとはいえ、私はいつもギリギリに起きているからかなり駆け足で朝の準備をしなければいけない。あと1時間もすれば奏が迎えに来る。可愛くなるにはたくさんの時間が必要だから、朝ごはんは20分以内で食べることが今日の目標だ。
朝の1時間なんてあっという間で、髪の最終調整をしているときに玄関のチャイムが鳴った。
「結衣ー!奏ちゃんもう来てるからねー!」
「はーい!もう行く!あと5分まって!」
「早くしなさいねー!」
玄関の方から「いつも待たせちゃってごめんなさいねーもうすぐ来させるから」なんて声がかすかに聞こえてくる。奏はいつも来るのがちょっとだけ、早いのだ。待たせるより待つ方が気が楽なんだよねー、なんてこの前言っていたのを思い出す。
前髪も綺麗に整え終えてカバンと、大事な大事な今日の主役のお弁当を持って玄関に向かった。
「おはよー!奏!」
「おはよう。あれ?今日はお弁当?」
「そう!今日那奈ちゃんとお昼一緒に食べる約束してててさ、マジで楽しみで眠れなかった」
「仲良くなるチャンスじゃん!じゃあ私は食堂行くかなー」
お母さんの「いってらっしゃい」という声を背中に受けて外に出た。いってきまーす!と奏と返事をして玄関を閉めた。私の家は学校まで歩いて行ける距離でそんなに遠くもない。
5分も歩いていると、同じ制服を着た人と合流する。クラスの子がいれば、おはよー!って声をかける。仲のいい子がいれば一緒に学校に行ったりもする。自分で言うのもなんだが友達は多い方だと思っている。クラスの女子も男子もだいたい話したことがある。なんで那奈ちゃんと話したことがなかったのか全然分からないけど今、仲良くしてるからオッケーである。
学校に着くと、もう那奈ちゃんは席に着いていた。静かに本を読んでいるから話しかけずらいけど、挨拶したくらいで嫌うような子じゃないことは分かっているから後ろから声をかけた。
「那奈ちゃん!おはよー!」
「あっ結衣ちゃん、おはよう」
那奈ちゃんは本を閉じて私の方を向いた。
「那奈ちゃんいつもお弁当だよね?今日は私もお弁当持ってきたんだー!」
持ってきたお弁当を那奈ちゃんに見せる。「私も…」と言いながら那奈ちゃんもお弁当をカバンの中から取り出した。水色の保冷バックでイルカの絵柄が描かれていた。
「わー!那奈ちゃんのお弁当かわいいねぇ」
「う、うん。ありがとう」
そういえば、那奈ちゃんはいつもどこでお弁当食べているんだろう。昼休みが始まるとすぐどこかに行っちゃうし、5限目が始まる直前に帰ってくる。まあ私の学校はどこでお昼を食べてもいい、みたいな感じだから教室で食べていない人も多いけど人が集まるところに那奈ちゃんが行くと思えなくて、どこでお弁当を食べているのか気になった。
「那奈ちゃんってさ、お昼いつもどこで食べてる?いつも昼休みに教室いないから気になってたんだよね」
「あー、うん。えっとね、今日連れて行くね」
「秘密ってこと?へへ、那奈ちゃんどこに連れてってくれるんだろ、楽しみだなー」
「秘密だよ。結衣ちゃんと私だけの」
コテン、と首を傾けながら微笑む那奈ちゃんは懐いた野良猫のようで思わず頭をよしよし、って撫でてしまった。嫌がられちゃうかもな、って手を引こうとしたら那奈ちゃんは私の手の上から自分の手を重ねてニコニコと笑った。
懐いた那奈ちゃん、あまりにも可愛すぎる。
恋野さんの依存癖 守山ちひろ @chihiro07
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