第19話 能登へ

 武蔵が伝七郎との激闘を終え、京の町を後にしようとしたその時、背後から聞き慣れた声が響いた。

「武蔵…待て」

 振り返ると、そこには、息を切らせたおつうが立っていた。彼女の表情は、悲しみと怒りに歪んでいた。

「おつう…なぜここに?」

 武蔵が尋ねると、おつうは、震える声で答えた。

「伝七郎様が…伝七郎様が、妖怪に…」

 おつうの言葉に、武蔵は驚愕した。伝七郎が妖怪化したという事実に、彼は戸惑いを隠せなかった。

「一体、何が起こっているのだ?」

 武蔵が尋ねると、おつうは、涙ながらに語り始めた。伝七郎は、武蔵に敗れた後、深い怨念を抱え、その怨念が彼を妖怪へと変えたのだという。

「伝七郎様は、あなたを恨んでいました。あなたを倒すために、妖怪の力を借りたのです」

 おつうの言葉に、武蔵は衝撃を受けた。伝七郎の行動は、彼の想像を遥かに超えていた。

「しかし、伝七郎様は、私を裏切ったのです」

 おつうは、声を震わせながら続けた。

「裏切り…?」

 武蔵が尋ねると、おつうは、頷いた。

「伝七郎様は、私を、あなたの妻にしようとしていました。あなたを倒した後、私を奪い、自分のものにしようとしていたのです」

 おつうの言葉に、武蔵は怒りを覚えた。伝七郎の行動は、武蔵の許容範囲を超えていた。

「許せない…」

 武蔵は、低い声で呟いた。

「武蔵…伝七郎様を、止めてください。このままでは、京の町が、伝七郎様の怨念に飲み込まれてしまいます」

 おつうは、武蔵に懇願した。

 武蔵は、おつうの言葉に頷いた。伝七郎の暴走を止めるのは、彼の使命だと感じた。

「わかった。俺が、伝七郎を止める」

 武蔵は、おつうに約束し、再び京の町へと向かった。

 伝七郎の妖気は、京の町を覆い尽くし、人々を恐怖に陥れていた。武蔵は、妖気を追い、伝七郎の居場所を突き止めた。

 伝七郎は、巨大な鬼の姿となり、京の町を破壊していた。彼の目には、狂気の光が宿っていた。

「武蔵…貴様を、必ず殺してやる…」

 伝七郎は、武蔵を見つけると、怨念のこもった声で叫び、襲いかかった。

 武蔵は、伝七郎の攻撃をかわしながら、彼に語りかけた。

「伝七郎…貴様の怨念は、貴様自身を滅ぼすだけだ。目を覚ませ」

 しかし、伝七郎は、武蔵の言葉に耳を貸さなかった。彼は、狂気のまま、武蔵に襲いかかった。

 武蔵は、伝七郎との激闘の末、ついに彼を倒した。伝七郎の巨体は、黒い灰となり、夜空に消えていった。

 戦いの後、武蔵は、おつうの元へと戻った。おつうは、武蔵に感謝の言葉を述べ、彼の優しさに涙した。

 しかし、武蔵は、おつうの優しさに触れながらも、心の奥底には、拭いきれない孤独を感じていた。彼は、まるで「おひとりさま」の世界にいるかのように、自分の居場所を探し求めていた。

 そんな中、武蔵は、新たな戦いの予感を感じていた。伝七郎の事件は、単なる始まりに過ぎない。彼は、新たな敵との戦いに備え、再び旅に出る決意を固めた。


 伝七郎との激闘を終えた武蔵は、おつうに別れを告げ、再び旅に出る決意を固めた。彼の心には、拭いきれない孤独と、新たな戦いの予感が渦巻いていた。

「武蔵…あなたは、どこへ行くのですか?」

 おつうが尋ねると、武蔵は、遠くを見つめながら答えた。

「能登半島だ。そこで、新たな戦いが待っている」

 能登半島。それは、武蔵にとって、因縁の地だった。かつて、彼は、能登の地で、多くの敵と戦い、その名を轟かせた。しかし、同時に、彼は、能登の地で、深い心の傷を負った。

「能登…?なぜ、そんな危険な場所へ?」

 おつうが心配そうに尋ねると、武蔵は、静かに答えた。

「俺は、自分の居場所を探している。そして、能登には、俺の居場所があるかもしれない」

 武蔵は、おつうに別れを告げ、京の町を後にした。彼の背中には、哀愁が漂っていた。

 能登半島へと向かう道中、武蔵は、様々な人々に出会った。戦で家族を失った者、飢えに苦しむ者、そして、妖怪に怯える者たち。彼らは、皆、武蔵に助けを求めた。

 武蔵は、彼らの願いを聞き入れ、彼らを助けた。彼は、妖怪を退治し、食料を分け与え、人々の心を癒した。

 しかし、武蔵は、人々の優しさに触れながらも、心の奥底には、拭いきれない孤独を感じていた。彼は、まるで「おひとりさま」の世界にいるかのように、自分の居場所を探し求めていた。

 能登半島に近づくにつれ、武蔵は、異様な妖気を感じ始めた。それは、伝七郎の妖気とは異なる、禍々しい妖気だった。

「これは…?」

 武蔵は、警戒しながら、妖気の震源地へと向かった。そこには、巨大な城がそびえ立っていた。

 城の中には、多くの妖怪たちが蠢いていた。彼らは、人間を襲い、その血肉を貪っていた。

「人間ども…貴様らの血肉は、我らの糧となる!」

 妖怪たちは、武蔵を見つけると、牙を剥き出しにして襲いかかった。

 武蔵は、妖怪たちとの激闘を繰り広げた。彼の刀は、妖怪たちの体を切り裂き、血飛沫を上げた。

しかし、妖怪たちは、次々と現れ、武蔵を追い詰めていく。彼らの数は、尋常ではなかった。

「これは…一体、何が起こっているのだ?」

 武蔵は、妖怪たちの多さに、戸惑いを隠せなかった。

 その時、城の奥から、禍々しい妖気が放たれた。それは、武蔵が今まで感じたことのない、圧倒的な力だった。

「人間ども…貴様らは、ここで終わりだ」

 城の奥から、妖怪の王が現れた。彼の姿は、巨大な鬼のようだった。

「貴様が、この城の主か」

 武蔵が尋ねると、妖怪の王は、嘲笑した。

「そうだ。そして、貴様は、ここで死ぬ」

 妖怪の王は、武蔵に襲いかかった。彼の力は、武蔵の想像を遥かに超えていた。

 武蔵は、絶体絶命のピンチに陥った。しかし、彼は、諦めなかった。

「俺は、貴様のような悪を、決して許さない!」

 武蔵は、渾身の力を込め、妖怪の王に反撃した。彼の刀が、妖怪の王の体を切り裂き、激しい戦いが始まった。

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