春に散る

🌸春渡夏歩🐾

サクラチル

 その人の訃報を知ったのは、繁華街を歩いているとき、電光掲示板に流れるニュースで、だった。


 ……あ!


 思わず立ち止まった僕以外、行きかう人々は気にも留めない様子で通り過ぎていく。


 思春期の多感な時期に、ふとラジオから流れてきた曲をはじまりとして、その人の数々の歌に、今までずっと支えられ、励まされ、勇気づけられてきた。

 僕が知ったのは、二人組のデュオを解散したあと、ソロ活動をはじめてからの彼。


「僕は昔、アイドルだったんですよ〜」

 彼の鉄板の自虐ネタだ。


 以前はオタクと言われ、暗いイメージがあった人達。今では自分の推しやアイドル、好きなものを語ることがうとまれない。良い時代になったと思う。


 昭和がレトロなものとして、もてはやされるこの頃、けれどもいつの時代だって、そこに生きた人達にとっては、それは最新で、夢中になって、胸躍らせるものだった。


 僕はいわゆる熱狂的なファンというわけではなかった。行ったコンサートも数えられるくらい、ファングッズを買い集めることもないし、追っかけをしたこともない。

 それでも、細く長く、いつもそばにはその人のたくさんの楽曲があった。


 彼は時代によって、もてはやされたり、逆にひどく叩かれたりした。

 愛について、生命について、日本と子供達の行く末について。

 歌い続けているテーマは、いつもずっと同じで変わらないのにね。


「サクラサク」がお祝いの言葉で、「サクラチル」は残念なお知らせなんて、いったい、いつ誰が決めたのだろう。

 

 僕は散りゆく桜も好きだ。


 人の死にはふたつあるという。

「肉体の死」と「存在を忘れ去られること」。


 彼がいなくなったあとでも、彼の創造した作品は、いつまでも僕の中に残り続ける。


 花が散ったあとにも残るものがある。


 ……ありがとう。どうぞゆっくりと、おやすみください。


 これは、僕のはじめてのファンレターです。



 *** 終わり ***



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