第3話

▶ あらすじ




<<< マーメイドの姫様は陸の王子様エンドを望まない - 6話くらいまでのあらすじ >>>


私は海の王子様と恋に落ちたい――


マーメイドのお姫様、ルッフォ・フィオーレ、年齢7歳。

蝶よ花よ、いや、ヒラメよワカメよと大事に大事に育てられて今に至る。



大広間で追いかけっこをして遊んでいるフィオーレとその姉妹たち。

ここはルッフォ王国の王宮。すぐそばでは父王が執務を行っている。



「陛下! 陛下!」


駆け込んでくる家臣。その手には抱えきれんばかりの品物。

父王が派遣した沈没船捜索隊が成果を持って帰ってきたのである。




珍しい品々目当てに集まってくる姉妹たち。


「私これがいい」「私これーっ!」


ヴェネチアンレースやら、ルビーのネックレスやら、家臣が持ってきた品物を身体にあてがったりしてきゃっきゃはしゃいでいる姉妹たち。

沈没船から持ち出してきた品々は王家に帰属するという習わしがあるためである。


「お嬢様たちにはまだ早すぎます」


付き添っていた教育係に注意されて不満げな姉妹たち。


「フィオーレ、お前も好きなものを1つ」


「じゃあ、私はこれを」


国王に促され、フィオーレが眼を留めたのは、鉛筆だった。


「これは……何でしょう?」


訝しがる周りの大人たち。誰も鉛筆を知らなかったのである。

勝手な自説を披露し始める者までではじめる始末。


「もしかしたら、これって……」


フィオーレが鉛筆を手にとった瞬間――

フィオーレは全てを悟った……

自分が異世界から転生してきた存在であることを。




フィオーレこと前世名「彩花」は料理をしていた。

その日の晩ごはんは、麻婆豆腐だった。

水切りした豆腐を包丁で切ろうとしたその時、彩花は激しい頭痛に襲われて、豆腐に顔から突っこんだ。

そしてそのまま、ご臨終だった。

最後に発した言葉は「せめてトラ転だったら……」

最後に目にしたものは、迫ってくる豆腐の角だった。

まさに「豆腐の角に頭をぶつけて……」というやつだ。

死因は……、死んでしまったのでどんな診断が下されたのかわからない。




「フィオーレ、フィオーレ」


父王からの呼びかけで我に返るフィオーレ。


「これは鉛筆と言って、文字を書く道具ですわ、お父様」


フィオーレの答えにどよめく周りの大人たち。



しかしフィオーレ自身は全く別のことを考えていた。

自分がどの世界に転生したのか見当がつかないのである。

自分は前世では数々の女性向けゲームをプレイしてきたが、マーメイドが主役のものなど知らない。

となると……。


「お父様? もしかして、赤い蟹のお目付け役が私についてたり……しませんか?」


訝しげな表情でフィオーレを見てくる父王。


「では、声を奪って、脚を生やす魔女、とか?」


慌てて駆け寄ってきた教育係によって自室へと連れ戻されてしまうフィオーレ。



後日、この話は「エンピツの呪い」と名付けられ語り草になっていく。

フィオーレ姫はエンピツの呪いのせいで頭がおかしくなってしまったのだと――



「現状把握、現状把握……」フィオーレは閉じ込められた自室でつぶやいていた。

なにしろ、ここがどこで、どんなストーリーが待っているのかすらわからないのだ。


もしここが、アンデルセンの世界なら、陸の王子と恋に落ちて、声を失い……海の泡となって消えてしまう!


そんな破滅エンドだけは避けなければ。



フィオーレは完全な現状把握が完了するまで、自分に2つのことを課すのであった。

・陸の王子と出会っても心奪われないように海の王子と仲良くしよう

・声を奪われてもコミュニケーションが取れるように、この海域の言語を覚えよう



方針が定まって一息ついていると、例の教育係がフィオーレを連れ出しに来た。


「決して粗相なさいませんように」


強く念を押され連れて行かれた先に、彼は待っていた。

隣国、アブルッツォ王国の第3王子、アブルッツォ・キアロである。

年の頃はフィオーレと同じ、ということは7歳~8歳といったところか?



しかしこの王子、ひとくせもふたくせもあって……。

フィオーレ姫とキアロ王子の恋愛物語が今、幕をあけたのであった――

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