第4話 PZ ダンジョン突入する その2
PZは慎重に歩く。銃口を表に出さないように、サブマシンガンの大部分を脇で挟みながら、壁から様子を探る。ひと昔前のオフィスビルのようなガラスで囲まれた部屋や、会議室のようなものが多い。何かが来るような気配がない。それでも男は警戒を怠ることなく、レンズらしきものをサブマシンガンで壊しつつ、三階に繋がる階段の近くまで辿り着く。
「ふぅー……」
貴重な休息を取る。携帯用食料を齧った後、仮眠を取り始める。目を閉じて、うつ伏せになりつつも、いつでも動けるような態勢だ。その状態は十分程度で終わる。カッと目を開き、瞬時に起き上がる。
「二階で襲撃遭わず。休息を取り終えた。これより三階に突入する」
慣れた手付きで腕時計型の端末から浮く映像のキーボードで打ち込み、キャンプ地にいる彼らに伝えた。すぐに階段を上がり、三階に入る前に周辺を窺う。大勢の人が集まるような施設や、未知の文字の看板や、食堂らしきものが彼の目に映る。二階と同じく、気配がない。それでも油断は出来ないと、PZは隠れながら、探っていく。
「この感じは」
感じた視線で振り向くと、カメラのレンズに似た何かが天井にある。細いナイフを出し、ダーツの要領で投げる。ガラスに似た透明のものと、機械らしきパーツの破片が床に落ちる。飛び散る火花はもう機械として使えない良い証拠だ。確認をし終えた男はメッセージを送る。
「管理者、或いは人工知能の存在の可能性あり」
サブマシンガンに触れる。マガジンに入っている弾数を確認し、構えながら前に進む。とはいえ三階のエリアは一階のようなロボットがいない。人々が利用していた空間が廃墟と化した物静かなところだった。だからこそ、PZは傾げる。最初はあそこまでハードだったのに、何故二階と三階はここまで穏やかなのだろうかと。
「兵器の俺が考えても無駄か」
男は横に振る。四階へと通ずる階段付近でキャンプ地に短い報告を送り、一段一段上がっていく。
「なるほど。ここからが本番か」
四階付近で様子を窺った直後、額に汗が滲み出るようになった。見たモノはいくつもの透明なラボ、積み重ねた資料を保管する厳重な部屋などだ。そしてそれらを守る人型警備のロボットが配置されていた。一階のロボットと同じ人型ではあるが、苔や錆がなく、定期的なメンテナンスを受けていることを男はすぐ理解した。それだけではない。人と同じ滑らかな動きをしており、ロボット同士でのやり取りらしきものも見られている。
「四階前で報告する。いくつもの警備ロボットを確認した。戦闘力は未知数だが、我々アメリカ合衆国が有する技術より遥か上だろう。今すぐの突入は不可能だ。撤退する」
素早くメッセージを送り、男は後退しようとする。しかしそう簡単にはいかなかった。近くにいた黒髪のかつらを被る人型ロボットが追いかけようとしている。PZは思わず舌打ちをする。
「察知したか」
そう言いながら、手榴弾を投げる。黒髪ロボットは怯むことなく、冷静に距離を遠ざけて、うつ伏せに近い態勢を取る。
「面倒な相手だ!」
PZは声を荒げながらも、後ろ向きで一気に階段を下る。爆発音と共に小さい欠片が飛び散る。
「PZ!何があった!」
イヤホンから聞こえるオペレーターの声が彼の耳に届く。丁度サブマシンガンで撃ち始めていた時だった。男は苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「撤退直後に悟られた。他のロボットも駆けつけてくるだろう。すまないがオペレーターはキャンプ地から移動を開始しろ」
「はあ!?」
突然のPZの提案にオペレーターが戸惑いの声を出した。
「最悪のケースとしてキャンプ地まで追いかけて来る可能性もあり得る。そうなった場合、俺だけではお前達を守れる保証がない」
最後まで言い切り、男は通信を完全に切った。サブマシンガンでフルオートの連射をしつつ、ロボットを一体一体倒す。
「マガジンひとつで一体が限界か」
PZはサブマシンガンをフルオートからロック状態にする。その後は機械封じも含まれるスモークグレネードを使い、濃い煙幕を張る。ロボットが動きづらくなっている状態を利用し、安全圏の三階に向かう。
「効いてないとはな」
使った煙幕はロボットに効果がなかった。突進する勢いでツルツルとした人型ロボットが襲いにかかっている。男はすぐにサブマシンガンのロックを解除し、撃ち始める。流石に近距離だったので、全弾命中し、ロボットの動きが止まる。それでもホッとする余裕はない。何体ものロボットが侵入者のPZを排除しようと近づいてきている。
キリがない。そう感じた男は妨害特化の小型の手榴弾を投げる。欠片が飛ばない代わりにバチバチと火花が飛び散る。ロボットたちは足を何度も上げて、慌て始める。知能が高いからこその弱点を突いた形となる。男は後退しながら、サブマシンガンで牽制していく。何度もマガジンを替えながら、フルオートで連射をしていく。その途中でロボット達は何かと通信する仕草を取り、話し合っているような行動をし始める。所々戸惑っている節を感じ取った男は否定するように頭を振る。
「……後ろから足音。マズイな」
男はロボットに挟み撃ちされた。一階から来たロボットは動きが鈍いものの、相手するだけでも苦労することには変わらない。
「階段は……無理だな。となると」
PZはサブマシンガンのフルオートを解除する。いくつもの手榴弾を放り投げ、三階にある食堂に入る。障害物を利用して、数を減らしていく作戦を取ろうとする。一体の人型ロボットが瓶のようなものを投げる。その中に透明の液体が入っていることに気付き、サブマシンガンで撃つ。銃弾に当たった瓶は粉々になり、透明の液体はマットを濡らす。
と同時に上にある機械が動くような音を聞き取り、男は天井を見上げる。盛り上がった山みたいなものがある。金属の突起物が異様に目立つ。すぐにヤバい代物だと判断し、腰にある左のホルダーから拳銃を出し、早撃ちをしようとする。彼の動きよりも、天井の機械の方が早かった。銃口に近い何かからピンク色の煙が出る。毒の類だと厄介だと、マスクを装着しようとするが、手首に痛みを感じて動きを止める。
「最新式の防弾服を貫通するとは」
感心しながらも、男は姿勢を低くし、マスクを付けようとする。ふと異変を感じた瞬間、倒れるように床に伏してしまった。
「あっ」
男の身体が急に熱くなる。息が荒くなる。何かが身体全体に行き渡り、脳に刺激を送り始めていた。散々慣れているような痛みの類ではない。それは人の本能が喜ぶような、快感に近いものだ。
「何だ……これは!」
PZが初めて感じたものだった。恐怖を感じながらも、このままではまずいという理解も出来ていた。痛みでどうにか持ち堪えられるはずだと、男は舌を切ろうとする。
「ん~っ!?」
いつの間にか来ていたロボットが男の口に手を突っ込む。舌の感触を確かめるように触っている。声のならない悲鳴をあげ、男は思わず目を瞑ってしまう。錠剤のようなものが口の中に入ってくる。抵抗すらできなくなっているので、普通にごくりと飲み込んでしまう。
「俺に薬が効くと思うな!」
男は毒などの耐性を有しているが、心身ともにボロボロになっている現在はただ虚勢を張っているようなものだ。
「ひ!?」
ロボットに触れられるだけで男は悲鳴を反射的にあげてしまう。頭が真っ白になっていく。脳の処理が限界を迎え、意識を手放してしまった。その直前の光景はロボットが何故かロボットを説教しているようなものだった。
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