※これは、フィクションです。

宇部 松清

第1話 ある女性へのインタビュー

「あっ、えっと、これはフィクションです。フィクションってことで、聞いてくださいね」


 僕の向かいに座るその女性は、顔の前で手をパタパタと振って笑った。僕はフリーのライターで、ここ最近は良いネタがなくて正直かなり焦っていた。そこへ、知人から彼女を紹介されたのである。なかなか刺激的な体験をしているらしいから記事にしたらどうか、と。


 そんなに警戒しなくても、あなたの名前は出しませんし、特定されそうな部分はフェイクを入れますから。そう言うと、彼女はちょっと大袈裟に肩の力を抜いてみせ、ホッとした顔で「あの」と話し出した。


「『座敷大人ざしきおとな』、って知ってます?」


 座敷童ざしきわらしならまだしも、何とも聞き馴染みのない言葉である。『座敷』という言葉のせいで反射的に座敷童を思い浮かべてしまったけど、もしかしたら全然別物かもしれない。ただ、いずれにしてもいままでに聞いたことがない、あるかもしれないが記憶に残っていない言葉である。僕が首を傾げていると、彼女は「ですよねぇ」と返事を先回りして苦笑した。


「まぁ、そのままです。座敷童の大人バージョンというか。座敷童って、家に憑いて、その子がいるうちは良いけど、いなくなったら災いが――って感じじゃないですか。それ系の話なんですけど」


 とのこと。

 とりあえず、座敷童のイメージで良いらしい。ただ、子どもではない。


「たぶん私、それなんです」

 

 録音しても良いかと尋ねると快く承諾してくれたため、スマホのアプリを起動させて、「どうぞ」と促す。彼女は「では」と小さく咳払いをした後で話し始めた。


 これは僕が、この、目の前の女性から聞いた『』だ。

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