金平糖の詰め合わせ

楪葉夢芽

壺菫色の金平糖『だって、あなたが綺麗だったから』【拡張詩】

 彼女は、とても美しく、そして綺麗だった。


 学績は常に首位を維持し、所属しているバスケ部ではキャプテンとして活躍している。所謂いわゆる、文武両道である。


 ボーイッシュな短髪は日光を受けてきらきらと輝き、風に靡いてはその滑らかさを印象づける。


 その瞳は──自分と目が合ったら汚れてしまう気がして、目を合わせられたことはないが──美しい色をしているのだと思う。


 彼女は心根も清らかで、その尊敬の念をクラス中から────否、学年中から集めている人気者。


 私は彼女を見ていた。彼女の、後ろ姿を。


 きっと、これは恋なんかじゃない。羨望や嫉妬を煮詰めただけの、何かだ。


 けれど、これを恋と言ってしまっても、言い切ってしまってもいいんじゃないだろうか。


 恋なんてものは所詮、独りよがりなものなのだから、私がこれを『恋』と形容したのなら、恋になるのだろう。


 幸運にも、私は彼女と掃除の当番が一緒だった。彼女は他の当番のクラスメイトと和気藹々とお喋りしながら、しかしきちんと手も同時に動かしている。私は影の薄い方だったため、無事彼女に話しかけられることもなく、ただ彼女の姿を眺めていられた。


「ねえ」


 掃除に集中していた私は、いつの間にか教室に私と彼女のふたりきりになっていることにようやく気がついた。そして、彼女に話しかけられていることにも。


 あ、と声を漏らすよりも先に、彼女が口を開いた。


「あなたの眼には何が棲んでるの?」


 彼女の、夕日に照らされて栗色が鮮明に輝く瞳の色を真正面から見てしまった。


 瞳が見えても、その質問の意図はさっぱり見えてこない。


 私は硬直したまま、何も答えられなかった。





 その翌週、彼女が同級生の誰かと付き合ったという噂が立った。



 彼女本人を問い詰める少女たちは上手くはぐらかされていたが、私は知っていた。おそらく、私だけが知っていた。


 彼女がどこぞの異性と──誰かと認識するよりも、彼女の美しさに目が眩み、誰かはわからず仕舞いだった──手を繋いで歩いて帰る姿を。


 ああ、どうして私の帰り道を、私の前を歩いてしまったのか。その所為で、私は否応なく気づかされてしまった。



 これは、恋なんじゃなかった!!



 もっと、おぞましく、醜悪な────。


「あ」


 ふと、私は気がついた。私が、彼女になればいい。


 彼女の綺麗な羽を手折って、彼女を私のもとまで墜とせばいい。


 そうして、彼女も私と同じ景色を見ればいい。


 極星のように眩く光るそれを、目をつむっていても煌々と輝くそれを、目障りで、羨ましいと思うほどに。



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「あなたの目ってとても澄んでるね」


 そんなことを言っても、彼女は終ぞ私と目を合わせてはくれなかった。


 どうすれば、彼女は私を見てくれるだろうか。


 逡巡した後、私は思いついた。私が、誰かに首ったけになっていたら?


 気になっている私が、自分以外の誰かだけを見ていたら、きっと彼女はそれが気に食わずに、私に会いに来てくれるだろう。


 そう、思ったのに。


 彼女は吹っ切れたように、羽ばたいて行ってしまった。


 みるみるうちに、学籍の首位は私ではなくなった。教師から渡された成績表には、二番手の数字。


 何の根拠もないけれど、彼女だ、と思った。実際、彼女が一番であったことは、たまたま職員室を訪れた際に小耳に挟んだ。


 バレー部でも彼女は凄まじい躍進ぶりらしく、遂にはレギュラー入りを果たしたと話題になっていた。


 まるで、憑き物が落ちたみたい、ですって。


 憑き物って、一体何の、誰のことだったのかしら。


 …………ああ。そんなに先を行かれたら、ますますそのが見えない。









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#242『だって、あなたが綺麗だったから』(1月27日)



 その日、私は極星のように眩く光るものを見た。目をつむっていても煌々と輝くそれが、目障りで、羨ましくて。

 だから私は、そのどうしようもなく綺麗な羽を手折ったんです。

 あなたが、私の手の届くところまで墜ちて来るように。

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金平糖の詰め合わせ 楪葉夢芽 @yume_yuzuriha

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