第2話 不運と幸運
年度初めということで、今日は授業はないものの、始業式や、色々なプリント配り、委員会決めなど、やることが多い。
まず一限は始業式で、全員体育館に集まることになった。
いくつになっても、校長先生の長い話を聞くというのはしんどいものだ。
為になることを言ってくれているのだろうけど、頭に入ってこないのは何故だろうか。
そんなことを考えながら、ボーッと話を聞いていると、遅れて誰かがやってきた。
それは、3組のクラスメート、浅田さんだった。
「すみません、ちょっと入れてもらってもいいですか?」
遅れてやってきた浅田さんは、出席番号が前から2番目だったので、俺たちは1つ後ろにズレることになった。
そうしてそれからも校長先生の長い話は続き、そろそろ終盤に差し掛かる頃、体育館の天井で、パタパタッとした音が聞こえてきた。
天井を見上げると、そこにはスズメが飛んでいた。
まあ、体育館の天井に鳥がやってくるなんてよくある光景だ。
俺は気にしないことにして、再び校長先生の方を向く。
その次の瞬間だった。
ポタッ。
つむじの部分に、生暖かい感触が広がる。
「うわ! 糞だ! 影山の頭に糞が乗ってるぞ!」
するとその時、俺の隣に座っていた男子がそう言った。
やっぱりか……
鳥が飛んでいたら俺の頭に確定で糞が落ちてくるのは、何なのだろうか。
その男子の声に、周りの皆がざわつき始める。
後ろにいた神代さんも、くすくすと笑いを堪えている様子だった。
俺は先生に呼ばれ、体育館を出ると、水道で頭を流すように言われ、列を外れた。
全く……列が後ろにズレなければ、糞がかからなくて済んだのに……なんて俺は不運なんだ。
その頃体育館では、神代さんの後ろの女子生徒が、神代さんとコソコソと話をしていた。
「列が後ろにズレてなければ、陽花に糞が当たってたかもしれないから、本当に陽花は運が良いよねぇ」
「う……うん……そうだね」
その時の神代さんは、笑いつつも、どこか申し訳なさそうな表情をしていた。
ハプニングはあったが、なんとか始業式は終わり、全員が教室に戻った。
チャイムが鳴り、二限が始まる。
「は〜いじゃあ二限は、色んなプリントを配っていくので、皆後ろに回していってください」
二限はプリント配りだった。
俺は整理が苦手だから、一日で大量のプリントを配られると辛いんだよなぁ。
そうは言っても、これに関しては整理が苦手な俺が悪い。
おとなしくプリントを受け取ろう。
「これはとても大事なプリントなので、絶対になくさないで、今日中に親御さんに渡してくださいね」
パッと見た感じ、プリントは全部で10枚ほど……
大事なプリントなら、最後に配ってくれよと、俺は心の中で愚痴を零す。
「はい」
そして、前の席の小野田さんからプリントが手渡される。
ただプリントを後ろに渡すだけ……簡単な事じゃないか。
プリントを渡すほんの数秒間で、不運な出来事なんか起こるわけがない。
そう思って俺は、小野田さんからプリントを受け取る……次の瞬間……
「うわっ」
俺が小野田さんからプリントを受け取る直前、換気のために開いていた窓から、もの凄く強い風が吹いてきた。
その風のあまりの強さに、俺はプリントを手放してしまう。
2枚のプリントは宙を舞い、ゆらゆらと落ちていく。
俺は急いで取りに行かないとと思って、席を立った。
ビリッ!
だが、先に床に落ちた1枚のプリントは、運悪く、
「あ? うわやっべ、誰のプリントだよ!?」
平本君は椅子ブランコをしたまま、そのプリントを拾い上げようとするが、バランスを崩し、プリントを真っ二つに裂いてしまった。
あぁ……重要なプリント……
俺は重い足を運び、平本君の席まで行くと、プリントを回収する。
「あははっ、悪ぃ影山。俺のと交換するか?」
「だ、大丈夫……プリントを放した俺が悪いから……」
「お、おう……そうか……」
一方その頃、神代さんはと言うと、宙を舞っていたプリントが、ゆらゆらと落ちていき、神代さんの机にピッタリ着地したのだという。
「わお……エッグぅ〜、あそこから綺麗に机に乗ることある〜? 陽花ってマジで運ヤバいよね〜」
神代さんの隣の
ちなみに園部さんは、この高校随一のギャルだ。
「それに比べて影山は、ほんっとに運がないよねぇ」
「う……うん……」
神代さんも、俺の様子を見ていたようだった。
きっとこんな俺を見て、引いているんだろうな。
その後は特に大きな不運はなく、プリントの記入だったり、整理だったりで、あっという間に二限が終わった。
三限では、委員会や係を決めることになった。
先生によると、一つ一つ決めていくと時間もかかる上、喧嘩も起きたりするらしく、男子と女子に分かれて、それぞれ話し合いで決めるということになった。
男子の中で、最も人気のない委員会は、広報委員会。
なにせ、広報委員会の仕事は、ポスター
掲示や、学級新聞の作成、そのための情報収集など、やることが多く面倒なのだ。
「よし! まずは1番めんどくせえ広報委員会から決めようぜ!」
そう仕切り出したのは、クラス一番の陽キャ男子、櫻井君だ。
「じゃんけんで負けたやつが広報委員会な!」
じゃんけんって……話し合いをしてって先生は言っていたのに……
それに、男子は15人もいるんだから、じゃんけんの方が話し合いより時間掛かるんじゃ……
「最初〜はグー!」
そんなことを思っていたら、いきなり櫻井君がじゃんけんを始めた。
「お、おい! いきなり始めんなよ!」
他の男子が櫻井君を止めようとするが、櫻井君は聞く気がない様子。
それを見て、俺含め、男子の全員が慌ててじゃんけんに参加する。
「ジャ〜ンケ〜ン、ポンッ!」
「……うわっ! 影山の1人負けじゃん!」
「やっば! 影山まじで今日ついてねえな!」
マジか……まさかとは思っていたけど、まあそうだよなぁ。
そう、俺は15人もいるじゃんけんで、1人負けをしたのだ。
せめて話し合いなら! とも思ったが、どうせ話し合いでも何かあって、俺は広報委員会になっていたのだろう。
こうなることを分かって、櫻井君はあえてじゃんけんを選んだのか……?
俺はとぼとぼと黒板に向かって歩き、広報委員会の男子の欄に、自分の名前を書いた。
一方その頃、女子の方では……
「広報委員会やりたい人〜!」
「「「「「は〜い!」」」」」
クラスのムードメーカーこと、田嶋さんが女子に声をかけると、全員がいっせいに手を挙げてそう答えた。
どうしてこんなにも面倒な委員会を、女子はやりたがるのだろうか。
女子であんなにやりたい人がいるのなら、男子1人女子1人じゃなくて、女子を2人にすればいいのに……
「むふふ……みんなやりたいようだね……それじゃあここは、運任せのじゃんけんでいきましょか!」
田嶋さんのその発言に、皆が焦った様子で止めようとする。
「待ってよ
「出っさなきゃ負けよ〜じゃ〜んけ〜ん」
田嶋さんは周りの女子の声を聞こうともせず、いきなりじゃんけんを始める。
出さなきゃ負けということで、広報委員会をやりたい皆は、慌てた様子で手を出す。
「ポンッ!」
「えっえぇぇぇえええ!?」
その時、女子たちの叫び声が、教室中に響き渡る。
「陽花ヤバっ……」
「もう! だからじゃんけんはダメって言ったのに!」
「だってぇ〜今日は勝てると思ったんだもん!」
なんと、女子15人でじゃんけんをした結果、神代さんが1人勝ちをしてしまったらしい。
「やった〜! それじゃあ名前書いてくるね
〜!」
その時、女子たちが黒板の、俺の名前を見て次々に話し始める。
「えっ、影山君が広報委員会……」
「陽花……大丈夫なの?」
「あの調子だと、作った新聞がすぐ破けちゃったりしそうだよね〜!」
すると、神代さんは黒板に向かう足を止め、口を開く。
「大丈夫だよ……」
その言葉に、皆が不思議そうな顔をする。
そして、皆の方を向いて、笑顔で答えた。
「だって私、運良いもん!」
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