第12話 戦いの後2

シャワーから出た俺は、身体を拭きながら下着をきていく。




太もものあざに気付かれないよう、長いズボンを持ち込むのを忘れなかった点は我ながらよく気が付いたところだ。




風呂からでると、部屋にはカレーのスパイスのいい香りがしていた。




廃墟団地ではあるが、自前でプログラムを修復して電気とガス・そして水道が通るようにしてある。




最近まで無許可だったため、何度も立ち退き要請があったが、プロトアウトに所属したことで組織がここの所有を認めてくれた。




どうやら少数ながら、プロトアウトはこの電子世界でそこそこ力ある組織なのだろう。




「あ、隼人――珍しいわね?長いズボンなんて」




成美が不思議そうにそういって俺を見た。




もう幼馴染同士、互いに気なんてそう使わないため。俺の風呂上がりは大体、パンイチか涼しげな恰好が多いのだ。




「寒いの?」


「いや、短パンと間違えて持ち込んだだけだ」




なんとか誤魔化せたと思う。




バイトの無い時、成美はあまり電子世界へ来ることは少ない。


月に一、二回、俺の拠点に世話を焼きにくるぐらいなのだ。




成美の作ったカレーを食べ終え、久しぶりに暖かい手料理というものを食べた俺は満足感を感じている。




「これ——」




後片付けをしていた成美が何かに気が付いた。




「あ」


「このエンブレム『プロトアウト』なんで隼人が!?」




プロトアウトのジャケットを見つけた成美が驚いた顔で、俺をじっと見た。




プロトアウトは秘密結社でもなんでもない、公共組織にあたるため、


新聞やニュースで何かと見る機会がある。




うっかりしてたのを悔やみながら、とりあえず成美を俺は見る。




「――」




彼女の眼は真剣だ、ごまかしようがない。




「俺もメンバーなんだよ、プロトアウトの」


「!」




成美のジャケットを握る手に力が入ったような気がした。




「や、やめなよ——危ないことは」


「今までとかわらんよ、危ないことはずっとしてきてる」




社会的にも物理的にもしてきていることは変わらない。俺の考えはそのままだ。




「送ってくから、今日は帰れ——」


「いや、泊まる」




成美がそういうと、洗い物を始めて俺に背を向けた。




こいつが泊まるのは初めてじゃない、だが、この空気で一緒にいるのはちょっと息がつまる思いがした。




『そういえば成美は——なんで電子世界にいるのだろう』




ふと俺は気になり、彼女の後姿を見る。




バイトの数や時給などは、電子世界のがよかったりする。それはわかる。


俺と違い、リアルのほうもあいつは大事にしている。




ではなぜ、電子世界に用もなく来るのだろうか——。




「ふう、シャワーかりるね」


「ああ、タオル洗濯した奴がかかってるから」


「うん」




彼女がバスルームに入り、しばらくしてからシャワーの音がする。




女の子は何をするにしても、時間がかかるというか、すぐパッと入って済ますわけにはいかないようだ。




成美の風呂は長い、時間つぶしに俺はテレビをつけた。




「やってるな」




テレビでは前回のウイルス被害の与えた問題について、コメンテーターがしゃべっている。




「プロトアウトが遅れをとっている——か」




相手が仕掛けてから、動くためどうしても後手に回るのは仕方ないところだ。




冷蔵庫からコーラをとり、飲みながらテレビを見ているとシャワーの音が止みドライヤーの音が響いた。




しばらくして、普段のポニテ姿じゃない髪を下ろしたロングヘアーの成美が現れた。




「ふう」


「下着姿でうろつくのはどうかと思うぞ?」


「どうせ——夜に脱がす癖に」




俺の一言に、成美が若干照れながらそう返した。




「風邪ひいたら電子世界でも症状がでるんだから、上になんか羽織れ」




そういって、俺はジャージの上着を肩にかけてやる。




「ねえ、隼人はプロトアウトを辞めるつもり——ないんだよね?」


「ああ」


「じゃあさ、私もここに住んでいい?」




成美の言葉に俺は即答しない。




過去、何度か成美から同居の話は持ちかけられていた。なんなら現実世界にいた時からだ。




今までは危険を理由に断っていた。だが今日の俺はどこか、思うところがあった。




死にかけた影響か、プロトアウトの責任感かはわからない。




「そんなにいたいか?」


「なんか——怖いの」




俺の問に成美がつぶやくように答える。




「隼人がどっか遠くへいなくなっちゃうようで、怖いの——」


「それ、小さい時からよく言ってたよな」




彼女がこういうのは初めてでない。今まで何度か、幼い時にも言われたことがある。




だが、ウイルスを考えるとやはり電子世界にいることは、リスクが高いように思えた。




「考えといてやるよ」




普段だと危険その他を色々説いて、あっちの生活を大事にしろというところだが、やはり今日の俺は気分が違う。




そういって、テレビを消してベッドに上がった。




「――」




いつもと違う反応と回答をされた成美は戸惑っている様子もなく、ただ当たり前のように俺の横に並ぶように横になった。


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