世界で一番大好き

雨宮ロミ

世界で一番大好き

 運命の出会いだったのかもしれない。と彼は言う。

 でも、その運命って、もしかして私がゆがめてしまったものなのかもしれない。


「みーやびちゃん♡」


 語尾にハートマークを付けながら私の名前を呼ばれる。比喩表現ではなく本当に♡がついている。二人、ソファの上に座っていた時に名前を呼ばれた


「どうしたの? 矢未(やみ)くん」

「名前を呼びたかったから呼んだだけだよ。おおみやまみやび、って本当にかわいい名前だよね。世界で一番かわいい名前。やみ、って俺の名前も入ってる」

「そう? 普通の名前だと思うけれど」

「いや、世界で一番かわいい名前だよ。あ、これから大宮山、じゃなくて黒切(くろぎり)になるのか。黒切(くろぎり)雅。こっちもいいね。かっこいい。籍入れたらそうなるんだよね。あ、苗字変わるの嫌なら俺が大宮山になるのもいいよ。大宮山矢未(おおみやまやみ)。みがいっぱいでいいね。籍入れるのはちゃーんと大学卒業してからだから。安心してね」

「う、うん……」

 

 黒切矢未(くろぎりやみ)くん。私の彼氏。優しいけれど、めちゃくちゃに重たい男。私に狂ってしまった。


 矢未くんは私の高校時代の同級生。初めて会ったのは高校1年生で同じクラス。黒髪サラサラで前髪が覆われている、少し影のあるイケメンだな、と思ったくらい。

けれども矢未くんの反応は違った。


「女神様……」


 会った瞬間にそんなことを言われた。見た目も頭も普通の女子高生の私が「女神」なんて言われるとは思わなかった。一目ぼれだったらしい。「あの時雅ちゃんに出会ったの、運命だって思ったよ。運命って本当にあるんだなって思った」と彼は何度も何度も何度も何度も話していた。

 その後から彼は狂ってしまった。


「君に好きだって言ってもらうためなら何でもするから」

「君が嫌だ、って言うならすぐに離れるから」

「君を幸せにしたい。君の全部が欲しい」


 ひたすらに重たい愛を私に注いでくれるようになった。黒髪サラサラだった髪の毛は私が当時好きだった芸能人のようにウェーブが掛かったセンター分けになって、ちょっと派手目な子が好みだったから、ピアスをいっぱい開けたおしゃれな姿になってくれた。「君のためだったらどんなことでもするよ」って言って。そんな、一生懸命な彼が好きになってしまった。高校1年生の夏休みのことだった。


 少し派手目の外見になったら彼はとにかくモテるようになった。けれども、彼はすぐに断る。そして「雅ちゃん以外になびくことなんてないから安心して」なんて言って、私の身体を抱きしめる。何度もそうしてくれた。本当に一途。何度か彼の昔のお友達に会ったけれど、みんな「黒切がこうなるとは思わなかった」って言っている。昔の彼は毎日毎日生きる意味を見いだせていないような、暗い雰囲気だったみたい。


 そして今、大学一年生。二人で一緒の部屋で暮らしている。部屋中に私の写真が飾ってある。今もソファに座ってる範囲でも私の写真が何枚も貼ってるし、ポスターみたいなのもある。


「君と出会って俺の人生が変わったんだ。これからもずーっと雅ちゃんのことを愛するよ」


 矢未くんは言うと私の身体を引き寄せ、そしてそのまま膝にのせてぎゅう、と抱きしめた。


「雅ちゃん、だーいすき。死ぬまで離さない。死ぬまでず~~~~~~~~っと大好き。俺と雅ちゃんがおじいちゃんとおばあちゃんになって死んで、二人で骨になっても、骨が土に還っても、宇宙が吹っ飛んでもだ~~~~~~~~いすき!」


 やばいことを言いながら彼は私の頭をなでなでと激しく撫でる。その手の温かさは今まで味わったことのない感覚。でも、この状態を嬉しいとすら思ってしまう。


こんなに愛されることなんて、なかなかないことだから。


この重たい愛を受け取れる私も、もしかしたら、狂っているのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界で一番大好き 雨宮ロミ @amemiyaromi27

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る