「本家に寄せなさいって話よね」

「マジで何なの、あの教師! あり得ないんだけど!」


 ブリリアント・ブリオッシュは激怒していた。

 怒りの原因は勿論、新しい担任教師──シャルルルカだ。

 ここは四年D組の教室。

 シャルルルカの授業をボイコットしたD組の生徒達数名が、各々好きなように過ごしていた。


「筋トレをさせたと思ったら、次は動く的と追いかけっこをしろって!? リリ達を馬鹿にしてるの!?」


 ブリリアントは握り拳を作って、ダンダンと机を叩く。


「ま、まあまあ。落ち着いて、リリちゃん」


 白衣を着た少年──ジュード・グレープジュースが彼女をなだめる。

 彼はレイの編入試験のとき、治験で生徒を暴走させた生徒だ。

 今もせっせと、変な色の液体が入ったフラスコをアルコールランプで温めている。

 ブリリアントはそんな彼をキッと睨みつける。


「何よ。ジュードくんもそう思うから、授業ボイコットしてるんでしょ!」


 ジュードは目を逸らした。


「ぼ、僕は実験がしたいから……。一緒にしないで……」

「はあ!? リリと一緒だと嫌なの!?」

「ひえっ! ごめんなさい!」


 ブリリアントの怒りの形相に、ジュードは怯えて頭を庇った。

 ジュードのその行動を見て、ブリリアントはハッとし、バツが悪そうな顔をした。

 彼女はジュードを怖がらせるつもりはなかったのだ。


「本物のシャルルルカ様だったら、リリ達を落ちこぼれから脱却させてくれると思ったのに……」


 ブリリアントは俯き、小声で呟いた。

 ジュードはなんと声をかけたら良いかわからなかった。


「……リリちゃん」

「期待するだけ無駄だったわね。結局、前の先生と同じ。リリ達のこと、嫌いなんだわ」


 ブリリアントは首を横に振り、話を変えた。


「それにしても、シャルルルカ様の名前を騙るなら、もっと本家に寄せなさいって話よね! シャルルルカ様推しのママが会ったら激おこよ!」


 ブリリアントは怒りで拳を震わせる。


「リリちゃんは違うの?」


 ジュードは首を傾げた。

 ブリリアントは両頬に手をぴったりと当て、頬を赤らめた。


「リリは英雄パーティー箱推しだけどぉ。最推しは大戦士ヴィクトウィル様かな! ああ、ヴィクトウィル様……一度、生で見てみたいわ……!」


 ブリリアントは最推しの顔を思い出して、うっとりだらしない表情をした。

 その横に、ムカつくシャルルルカの顔が出現して、彼女はげんなりした。


「ヴィクトウィル様の隣にあんな奴がいたなんて、マジであり得なぁい! ジュードくんもそう思うよねー!?」

「ぼ、僕は……わかんないよ。シャルルルカ様が活躍してた頃、僕はまだこの世にいなかったし……」

「リリだってそうよ! でも、知ってる人の話聞いてたら大体わかるでしょ!? あいつが偽物だって!」

「そ、そうかなあ……。会ったこともないのに、偽物だと判断するのは……」

「うるさーい! あいつは絶対、ぜーったい! 辞めさせてやるんだから!」

「え。辞めさせるの?」


 ジュードは目を見開いた。

 ブリリアントは大きく頷いた。


「ええ! リリね、あいつを辞めさせる良い作戦考えたの! 聞きたい? 聞きたいでしょ!」


 ブリリアントは「ねえねえ」とジュードに近寄る。


「いや、別に……」


 ジュードは目を逸らした。

 すると、ブリリアントは顔を真っ赤にさせた。


「はあ!? リリの作戦を聞きたくないっての!?」

「うう、ごめんなさい……」


 ジュードは涙目になる。


「作戦は、ズバリ! 運気を下げる魔法を使うのよ!」


 ブリリアントは得意げな顔で言った。


「運気を下げる……?」

「そう! タンスに小指ぶつけたり、晴れの予報だったのに雨が降ってきたり!『教師になってから運悪いな~。辞めたいな~』って思わせるの! どう!? リリ、天才でしょ!?」


 ブリリアントは胸を張って言った。


「なんか、しょぼいね。もっとこう、大怪我させたりしないの?」


 ジュードは冷静に指摘する。

 ブリリアントは顔を顰めた。


「そんなことしたらリリが悪い子になっちゃうじゃない!」


 ブリリアントはぷりぷりと怒った。

──教師を辞めさせる時点で十分悪い子じゃ?

 そう言ったらブリリアントはもっと怒るだろう、とジュードは口を噤んだ。


「それで、その魔法ってどうやって発動するの?」

「これから習うわ!」

「誰に?」

「勿論、先生によ!」


──結局、先生に頼るんだ……。

 ジュードはやれやれと首を横に振った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る