「ちゃんと授業してるのか」

 ドロップ魔法学園の職員室。

 シャルルルカのデスクには様々な魔道具が広げられていた。

 そうしたのはシャルルルカ本人だ。

 彼は演習場から持ってきた的当て用の的に、魔道具を使って何やら細工をしているようだった。


「シャルルルカ先生」


 アーヒナヒナはシャルルルカに話しかける。

 シャルルルカは横目でアーヒナヒナを確認すると、直ぐに視線を下に落とした。


「お、アーヒナちゃん。歩く気になったんだね」

「ちゃんづけで呼ぶな」


 アーヒナヒナはじろりとシャルルルカを睨みつけた。


「まあ、騎士のときの感覚を取り戻すにはまだ時間がかかるが……。貴様には感謝してるよ。歩く感覚を思い出させてくれて」


「同時に恨んでもいるがな」と彼女は付け足した。


「そう。ところで、あの気味の悪いデスクは誰の?」


 シャルルルカは通路を挟んで向かいのデスクを指差す。

 そこには、大魔法使いシャルルルカの肖像画が飾ってあった。

 それも、一枚どころではなかった。

 まるで祭壇のように、様々な大魔法使いシャルルルカの肖像画が、デスクの上を占領している。


「ああ、あれはピエーロ先生のデスクだ。彼は大魔法使いシャルルルカの熱狂的なファンだからな……」

「へえ。私の」

「絶対に貴様ではない」


 アーヒナヒナはため息をついた。


「貴様は朝からずっと職員室にいるが、ちゃんと授業をしてるのか?」

「今、授業中だ」

「は?」

「シャルルルカ先生!」


 エイダン達D組の生徒が、息を切らせながら職員室に飛び込んできた。


「シャルルルカだ。三度目はないぞ」

「全員終わったで! 腕立て伏せ千回! 約束通り、授業して貰おうやないか!」

「ふうん。じゃあ、次はスクワット千回」

「はあ!? 授業するって言うてたやん!?」

「言ってない。『授業してやっても良い』と言ったんだ」

「屁理屈や!」

「次は授業してやる。ほら、今日の授業が終わっちゃうぞ」


 シャルルルカはしっしっと手を振った。

 エイダンは顔を真っ赤にして怒り狂う。


「ぐあああああ! あんた、いつか必ずギャフンと言わせ──ぐう……」


 エイダンが言葉の途中で眠りに落ち、後ろに倒れる。

 偶々後ろにいたレイが、エイダンの体を受け止めた。

 マジョアンヌは「あらあら」と困ったように笑う。


「またプッツンしてしまいましたわねぇ」

「私の前で居眠りとは良い度胸だ」

「申し訳ありませんわぁ、シャルルルカ先生。また出直しますわぁ」


 マジョアンヌはスカートの裾をちょんと掴んで、膝を軽く曲げた。


「ところで」


 彼女は続けて言う。


「次こそは、授業をして下さるんですわよねぇ」


 マジョアンヌの顔は微笑んでいたが、目は笑っていなかった。

 シャルルルカは微笑みを返す。


「ああ、勿論。私は嘘をつかない」


 D組の生徒達はすごすごと職員室を出て行った。


「子供は騒がしいな」

「……シャルルルカ先生、一体、何の授業をしてるんだ?」

「ここは魔法学園だぞ。魔法以外にあるか?」


 シャルルルカは何事もなかったかのように作業を続けた。

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