第三章: 王の誕生

街を破壊し尽くした悪魔たちの中で、さらに恐ろしい光景が街の中心で形を成していた。殺戮だけでは飽き足らず、奴らは死体を積み上げ、それを貪り喰らっていた。それはまるで獣の儀式のようであり、自らの支配を誇示する祝宴のようでもあった。


壊れた建物の陰に身を潜めながら、その光景を見つめるリオネルの胃がひっくり返りそうになった。これはただの侵略ではない――完全なる占領だ。


しかし、衝撃に浸っている暇はない。生き延びるために、逃げなければならなかった。


マルコ (震える声で): 「な…なんだよ、これは…!?こんなの、地獄そのものじゃねえか…!」


セリーナ (拳を強く握りしめながら、怒りと恐怖が入り混じった声で): 「私たちは…とんでもない間違いを犯した…。逃げられるうちに、逃げるべきだったのよ。」


レイ (かすれた声で): 「ここにいたら…死ぬ。」


リオネルは何も答えなかった。彼の視線はただ一つ、あの赤いゲートに向けられていた。そこから、圧倒的な何かが放たれているのを感じる。今まで経験したどんな脅威とも違う…まるで、"恐怖"そのものが形を成したような存在。


そして――それは、ついに現れた。


ゲートから姿を現したのは、一人の男。


高身長で、全身を黒きオーラに包まれ、血のように赤い瞳が不気味に輝いていた。彼の身を覆う漆黒の鎧は、まるで伝説に語られる魔王そのものだった。


その瞬間――


悪魔たちは、一斉に跪いた。


悪魔たち (恭しく、揃った声で): 「陛下に、忠誠を――!」


その場にいたリオネルたちの身体に、かつてないほどの圧力が襲いかかる。空気が重く、呼吸すら困難だった。まるで身体そのものが、動きを拒否しているようだった。


マルコ (恐怖に染まった声で): 「こ…これは…!?一体、何なんだよ…!?」


セリーナ (かすかな声で、震えながら): 「これは…ただの怪物なんかじゃない…。何か…もっと別の存在よ…。」


男の背後から、四体の異形が続いて現れた。


普通の悪魔とは明らかに異なり、彼らの放つ威圧感は主に劣らぬほどだった。ひと目見ただけで分かる。


彼らは、"配下"だ。


その中の一体だけでも、Sランクのハンターを容易く引き裂けるほどの力を持っている。


リオネルは、震える指先を押さえつけながら、一つの結論に至った。


"ここに留まれば、確実に死ぬ"。


リオネル (静かだが、決意に満ちた声で): 「…今すぐ、ここを出るぞ。」


迷う暇はなかった。リオネルは即座に踵を返し、全速力で走り出した。


背後では、悪魔たちが新たな王に忠誠を誓う儀式を続けていた。


そして――偶然とは思えぬほどの絶妙なタイミングで、それは起こった。


彼らが逃げ出してから、ほんの数秒後のことだった。


黒きドームが都市全体を覆ったのだ。


セリーナ (愕然としながら立ち止まる): 「…待って…何よ、これ…?!」


マルコ (恐怖に目を見開きながら): 「そんな…嘘だろ…!?」


レイ (息を切らしながら): 「もし…ほんの少しでも遅れていたら…俺たち、閉じ込められてた…。」


リオネルは無言のまま、その黒い檻を見つめ続けた。


これは、"宣告"だった。


――もはや、この都市は人類のものではない。



---


隣町への逃亡


それから数時間にわたる過酷な逃亡劇の末、彼らはようやく隣町へと辿り着いた。


だが、息も絶え絶えにたどり着いた彼らを迎えたのは、"信じられない"という視線だった。


街の人々は皆、まるで死者が蘇ったかのように、彼らを呆然と見つめていた。


ハンターギルド【黒虎】へと駆け込むと、ギルドのメンバーたちは絶句した。


「生きて帰ってくるはずがない」と、誰もが思っていたのだ。


だが、リオネルには周囲の視線も、疑問の声も関係なかった。


彼の頭の中にあるのは、一つのことだけ。


ギルドの奥の部屋へ向かい、勢いよく扉を開け放つ。


そして、そこにいた男――兄の目をまっすぐ見つめながら、静かに、しかし恐怖を孕んだ声で言い放った。


リオネル: 「俺は…この目で"地獄"を見た。

…そして、それはもう、ここにいる。」



---


第三章・完


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