【KAC20255】天下無双ダンス
和泉歌夜(いづみかや)
本編
年に一度、ちゃらけぽ布団という組織が不特定の場所で開催される『天下無双ダンス』。私はそこに潜入取材することになった。特に厳しい決まりはなく、ただ合言葉が『国士無双』だということぐらいだ。
今年の場所は廃墟で行われた。参加人数はわずか三人。それもそのはず、このダンスは室町時代から存在する伝統ある舞踊なのだが、最近継承者不足やダンスの認知が薄れていき、絶滅寸前なのだという。
だったら、秘密裏にせず公に公開すればいいのに――と助言したが、彼らのプライドはエベレストよりも高く公にするくらいなら滅びた方がマシだと矛盾した意見を述べた。それにこのダンスのおかげで子孫繁栄してきたのだという。言っている意味がよく分からなかった。
さて、『天下無双ダンス』は至ってシンプルなものだ。音楽に合わせて大袈裟に踊るだけ。しかし、その踊りが辞書並に分厚く、その踊りが一つでも間違っていると切腹させられるというデスゲーム的な要素が絡んでくる。私も未婚なかばで死にたくないので覚えるのに半年を要した。
私以外の三人は皆白髪の老人だった。中には杖をついているのもあって、滅亡は目前のようだった。
か細い腕の老人がラジカセを持ってくると、カセットテープを入れてスイッチを押した。
すると、伝統とは思えないようなアップテンポな音楽が流れた。老人はなぜかその音楽を聞いた途端、海老のように曲がっていた腰が上がって若者の如く機敏に動かした。踊りは舞踊的なものをイメージしたが、平成で流行したパラパラだった。
私は呆然としたが、彼らの踊りに少しでも遅れると打ち首なので慌てて手を動かした。
ちなみに『天下無双ダンス』の曲はこんな感じである。
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
天下無双 ダダダンスス 今宵は水際攻めじゃ
あちゃらかん天子も 酒酔われ おいどれやくせ者だえ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
天子無双 ダダダンスス おいどれ裏切り者じゃ
だちゃらば変人んな 刀もて 打ち首じゃけぇ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ
踊りは飽きたぜ 今夜はおなご祭りじゃ
者ども裸になれ まぐわひたもれ
ちゃらけぽ ちゃらけぽ ちゃらけぽ……。
とても何百年も続いた踊りとは思えない下衆で陳腐な歌詞に狼狽しながらも最後まで踊り切ることができた。
ダンスを終えた老人達は久しぶりの激しい踊りをしたせいか、うめき声を上げながらその場にうずくまってしまった。私は慌てて救急車を呼ぼうとしたが、全力で止められてしまった。
「わ、わしゃ……こ、ここまでじゃ……あとはお前が……こ、この踊りをけ、継承するん……じゃぞ」
老人はそう言って巻き物を受け取った後、項垂れてしまった。どうやら寿命が尽きたらしい。他の老人達も私を新たな継承者として認めた後、息を引き取ってしまった。
私は困り果ててしまった。継ぐ気などサラサラなかったのである。とにかく救急車を呼んで、病院に運ばせ、警察から死ぬほど尋問され開放されると私は巻き物を博物館に寄贈した。
どうやら紙の質でちゃんとした歴史あるものである事が判明したらしく、すぐに展示されることになった。
こうして室町から始まった謎の『天下無双ダンス』は令和で途絶えたが、たまに夢の中で老人達が博物館に寄贈したことを咎める夢を見る。
そういう時はグラビアの写真を枕元に置くと、途端に消えてしまうので、しばらくはこれを続けようと思う。
【KAC20255】天下無双ダンス 和泉歌夜(いづみかや) @mayonakanouta
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