第2話:カメリア迷宮
試験官である教師に先導され、俺たち受験生はぞろぞろと連れ立って移動を開始する。
やってきたのは、先ほどの体育館から離れたドームだった。
そのまま中へ入り、通路のような場所を抜けると、目の前に広がるのは周囲を囲む観客席と、中央に立つ巨大な装置のようなもの。
「あれが噂に聞くカメリア迷宮か……」
「カメリア中央迷宮学園が保有する、学園の生徒と教員のみしか入ることを許されないって話だ。俺たちが入学したら、まずはあの迷宮に入ることになるだろうよ」
「く~……! やっと迷宮に入れるようになるんだ! ワクワクしてきたぜ!」
歩きながら、そんな会話が後ろから聞こえてくる。
管理されている迷宮というのは、すべてあのような大層な装置が取り付けられているものなのだろうか?
あいにくと、師匠に連れまわされた迷宮はどこもかしこも管理されていない野良迷宮だったためよくわからない。
ただ、すごい技術が使われていることはわかる。腕に取り付けられている《強制脱出装置》とやらも同様、管理下であるかどうかでこうも変わるのか。
「全員揃っているな。では、
立ち止まって振り返った教師の合図と共に、同伴していた教師たちも行動を開始する。
どうやら受験番号ごとに出発のグループを分けているらしい。俺もそれに従い、三番目のグループに収まったのだが、一グループでも二百名いるためなかなかの数だ。
一度に千人も入るというのに、それでもなお余裕があるというカメリア迷宮。
今までいくつもの迷宮を師匠とともに回ってきたが、ここの迷宮の規模は段違いと言っても過言じゃない。
これだけの迷宮を、今後の
きっとその管理も大変なんだろうと考えていると、「次! 第三グループ!」とお呼びがかかった。
どうやら前の二グループは出発してしまったらしい。第三グループの面々とともに移動したのは、中央の巨大な装置の下。よく見れば足元には魔法陣のようなものが描かれている。
全員がその魔法陣に乗るようにと指示を受けてそれに従えば、迷宮突入前の最後の説明が始まった。
「これより受験生諸君は、この魔法陣からカメリア迷宮へと入ってもらう。体育館の方でも言ったが、試験内容は迷宮内での
そう言って、手に持っていた機械を操作する教員。
すると、教員が手に持つ機械からホログラムのような映像が浮かび上がり、
「訓練学校出身の者は映像などでも見たことが多いだろうが、こいつはゴブリンだ。討伐の難度は一。多くの迷宮で確認されている
そして続けて、もう何種類かの
ゴブリンに続けて、二足歩行した犬のような怪物であるコボルトやスライムという動く粘体の怪物。さらには、動く骨スケルトンや小さな悪魔と呼ばれるインプ。
そして最後に、二足歩行する巨大な豚のような怪物であるオーク。
どれもこれも、今までソロで倒した事のある
「今ここに映した
そして教員は制限時間は二時間だと告げ、全員にドローン型記録デバイスを配布する。
手渡されたそれは丸みを帯びた小さな機械だった。
教員の説明通りにスイッチ部分に触れると、一人でに浮かび上がり、そのまま俺の頭上に待機するような形で待機する。
そして同時に、俺たちの足元の魔法陣が青白い光を帯び始めた。
どうやら迷宮へ転移する時間が来たらしい。その光に、周囲の受験生たちがどよめくのだが、すぐさま落ち着きを取り戻して各々の武器に手を伸ばしていた。
かくいう俺も、背中の弓に手を伸ばす。矢筒の矢も問題はなしだ。
「二時間経てば、強制脱出装置が起動してここに戻される。全員、合格を目指して頑張ってくれ! では、諸君らの健闘を祈る!」
視界が光に塗りつぶされていく中、最後に教員の声が響く。
そして完全に視界が真っ白になり、一瞬の浮遊感を感じたかと思えば、次の瞬間には薄暗い洞窟のような場所に佇んでいた。
周囲を見渡す。
道幅一〇メートルほどはある広い通路だ。ゴツゴツとした岩肌が剥き出しになった壁と、天井には洞窟での重要な光源となっているヒカリゴケが生息している。
こういったタイプの迷宮では必ず目にする植物だ。ありがたいと思いながら耳を澄ませば、遠くから何かがこちらへと向かってきているのに気づく。
「……数は五。歩き方からしてゴブリンか」
静かに弓を番え、足音が聞こえた方向へと鏃を差し向けた。
音からして、近くにいるのはこちらへ向かってきているゴブリン五体のみ。受験生の気配はないようで、矢を放っても当たることはないだろう。
あれだけの数が同じ迷宮内にいるというのに、どれだけ大きな迷宮なのだろうか。
『……ギャ? ギャギャギャ! ギャッ!』
弓を引き絞ったまま待つこと十数秒。薄暗い洞窟内を進んでいたゴブリンたちがようやく姿を現した。
それと同時に先頭を歩いていたゴブリンも俺の姿を見つけたようで、後ろの四体に向けて何かを話すように鳴いていた。
そのゴブリンを狙って、矢を放つ。
真っ直ぐ標的へと向かった矢は、寸分の狂いなく先頭を歩いていたゴブリンの首に突き刺さり、そしてそのまま矢が刺さったゴブリンはバタリとその場に倒れてしまった。
「まずは一体」
完全に息絶えたのか、倒れたゴブリンの体が灰と化す。
迷宮内の
一説では、
そのあたりのことは、迷宮に関しての研究をしている人が調べているのだろう。
仲間が倒れたことに動揺する残りのゴブリンたち。
俺は続けて矢を番えると、こちらへ視線を向けようとしていたゴブリンに狙いを定めて矢を放った。
「二体目」
パシュッ、という矢が
調子は良好。狙いも完璧。相手にする
「【装填】」
最後に、と弓そのものに備えられた機能を使う。
師匠からプレゼントされたこの弓は、体育館で見たあの銃と同じで、魔石が取り付けられた《魔石武具》と呼ばれる特別製なのだ。ため込まれた魔力を使用することで、魔力で形成された矢を番えることができる。
呪文とともに、矢には三本の矢がセットされた。
『ギャギャッ!!』
ちょうどそのタイミングで、残りの三体のゴブリンがこちらへと駆け出した。
武器は木製の棍棒。防具らしきものは身に着けておらず、腰みのを撒いている程度だ。
「シッ」
息を吐き出しながら魔力の矢を放つ。
先ほどの矢とは異なり、魔力で形成された矢はそれぞれ独自の軌道を描きながらゴブリンの首筋へと突き刺さった。
威力そのものは実際に矢を使った方が高いのだが、魔力の矢は対多数への対処に役立つ。
問題なく弓の機能を使えることを確認した俺は、灰を被った二本の矢を拾い上げると、まだ矢として使用できることを確認して矢筒にしまい込んだ。
魔石の魔力も、三本程度の使用ならほとんど消費はない。
「……さ、あと二時間弱。合格を目指して頑張ろうか」
頭上に浮かぶ記録デバイスに目を向ければ、こちらにわかるように『ゴブリン:五』というホログラムを映し出してくれた。
記録も問題なくできているらしいが……これを通じて教員たちが俺たちが戦う様子を確認できることを考えると、迂闊な行動はできないだろう。
万が一の場合は、自然を装って叩き落とす選択肢も考えておこう。
なにせ、ここは迷宮なのだ。
管理されているとはいえ、何が起こるかわからない。
「『想定外は想定しておけ』、ね……」
師匠の教えを口にしながら、俺はそっと腰に携えた双剣へと手を伸ばす。
「……慎重に進むか」
弓を手に持ちながら、周囲の音を探るように歩を進める。
そして道中で出会った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます