迷宮探索はゲッシュとともに

岳鳥翁@書籍2巻発売中!

第1話:最終入学試験

「それではこれより、カメリア中央迷宮学園の入学試験。その最後の試験を執り行う。受験生は各自、武器を持って待機!」


 俺を含め、広い体育館に集められた十五歳の受験生たち。

 筆記試験に加え、体力試験や能力試験も突破した男女それぞれ五百人。この中からカメリア中央迷宮学園に入学が許されるのは、男女それぞれ五十名の受験生のみ。


 わずか十分の一にしか許されない栄誉を手にするには、この最終試験を突破する必要がある。


 無意識に腰に携えた双剣に手を添え、そして背負っていた弓を手に取って弦を確認する。

 念のためにここへ来る前に点検はしている。遺憾なくその性能を発揮することはできるだろう。俺がその性能を十全に発揮してやれるかどうかにかかってはいるが。


 ふと周りを見れば、俺と同じように己の武器を確認している受験生たちの姿。

 ここに集まっているのが、すべて俺と同い年の探索者ダイバーであるというのだから壮観だ。今まで師匠に連れまわされた場所では、基本的には俺よりも年上だったから新鮮に感じる。


「おっと、そうだったな。受験生諸君は、それぞれ男女で……騎士ナイト神官セイントで左右に分かれてくれ。本校の教員が本人確認を行う。教員が前に来たら、各自使用する武器と顔を見せるように!」


 俺たちの前に登壇していた教師が声を張り上げると、その声を聴いた周りの受験生たちがいそいそと移動を始める。

 女子たち神官セイントは教師たちから見て右側へ。男子たち騎士ナイトは左側へ。


 俺も皆に倣って左側へと移動し、本人確認をして回っている教師たちが来るのを待つ。


「おい、あの神官セイントって……」


「ん? どうした」


 静かに待っていると、背後に座っていた男子二人組の話し声が聞こえてきた。

 このカメリアへ受験する前からの知り合いなのだろうか。妙に仲良さげに話している二人組の声が気になり、そちらの話に耳を傾ける。


「あの赤い髪……間違いない、神楽月の関係者だぜ。探索者ダイバーの名門として名高いあの神楽月だ」


「優秀な探索者ダイバーを多く出してるっていう、あの? へぇ……なら、彼女も優秀なんだろうよ」


「だな。きっと、余裕で合格するんじゃないか? 才能も家柄もある奴ってのは羨ましいねぇ」


 どうやら神官セイント側のとある一人の受験生の話をしているらしい。チラと目をやれば、たしかに彼らの言う通り赤い髪をした女子生徒が静かに目を閉じ、腕組みをしながら待機していた。


 腰のホルスターには二丁の拳銃。どうやらあれが彼女の武器らしい。なかなかの業物のように思える。

 魔石と呼ばれる、魔力を取り込む特殊な石が嵌め込まれているのだが、ああいった武器はかなり値が張るものだ。


 しかし、後ろの彼らが話す通りの名門の出であるというのなら納得だ。そういった高価な武器を揃えることもできるのだろう。


「君。眼帯をつけてる君。名前と使用する武器を教えてほしいのだけれど」


「……む? これは失礼しました」


 一人勝手に納得していると、いつの間にか俺の順番が来ていたらしい。

 カメリア中央迷宮学園の教員であるという女教師は呆れた目を俺に向けると、「これから受験なんだから、もっと集中しなさい」とため息を吐く。


氷野ひのけい。仕様武器はこの弓と、腰の双剣。メインが弓で、双剣はサブです」


「はい、氷野くんね。使用武器も申請してる通りで、武器の他に持ち物はなさそうね」


「はい、ありません」


「わかったわ。訓練学校出身じゃない子が最終試験に残ってるのは珍しいから、頑張って合格を目指してね。」


 そう手を振りながら去っていく彼女は後ろの二人組の方へ向かうと、俺と同じような質問をして手にした書類に目を通していた。


「師匠から聞いてはいたが……やっぱり、訓練学校を経て入学するのが一般的なのか」


 自身がどれだけ特殊な境遇なのか、改めて教えられた気分になる。

 だからといって悲観はしない。あいにく、訓練学校では学べないような経験を積んできた自負はある。


 だがしかし、それでも一抹の懸念点はあるのだ。


「制限を設けたうえでの、カメリア合格。それと、同年代の友達を作るように、だったか? 師匠は俺ならできると言っていたが……」


 脳裏に思い浮かぶのは、拠点のベッドに寝転びながら「合格して来い」と思い付きのよう言った己の師匠の姿。

 師匠め……目立ちすぎるのは良くないというのはわかるが、だからといってこれまで使ったことのなかった弓を武器に指定するとはどういうことだ。


 ただ振るえば攻撃可能な刀剣類と異なり、弓は技量が試される。幸い、受験が決まってから時間はあったため、ある程度当てられるようにはなったが……それでもカメリアに合格できる技量かと言われれば首を傾げるしかないだろう。


 なにせ、ここは探索者ダイバーを目指す若き才能が集う教育機関、そのトップとも評される学園だ。当然、入学しようと集まる者たちのレベルも高くなる。


 そしてもう一つの指示である友達作りだが……今まで周りに同年代がいなかったため、師匠が気を遣ってくれたのだろう。

 指示されて作るものではないと思うのだが、そう言ってもらえた方が俺にとってもわかりやすい。よし、頑張ってみよう。


「……いや、それもこれも合格してからの話だな」


「全員注目!」


 受験生の確認が済んだのか、俺たちを教壇から見下ろしていた教師が声をあげた。

 彼は一斉に視線が向けられたことを確認し、一つ大きく頷いてから続きを話す。


「全員の確認が取れたため、これから迷宮へ移動する。知っての通り、最終試験は我が校が保有する迷宮内での怪物モンスター討伐だ! 当然奴らも、迷宮に足を踏み入れたお前たちを殺そうと襲い掛かってくるだろう」


 その言葉に、浮ついていた体育館の空気が一変する。

 静寂が訪れた空間内に、ゴクリという誰かが息をのむ音が大きく響いたような気がした。


「だが、安心していい。我が校の迷宮全五〇階層のうち、今回試験に使用するのは五階層までだ。騎士ナイト神官セイントでパーティを組まずとも、十分に対応できる強さの怪物モンスターしか出ないはずだ」


 さらに! と自信満々、と言った様子で教壇に立った教師が自身の胸元を指差した。


「受験生諸君に配布したこの装置は《強制脱出装置》と呼ばれるものだ。人の手で管理されている階層までであれば、死亡するダメージを負ったとしても無傷のまま迷宮の外へ脱出させてくれる。我が校は三〇階層までが管理下にあるため、安心して挑んでくれて構わない」


 言われて、俺も首から下げた小さな機械に目をやった。

 首にかけてあるチェーンに繋がった四角い端末。縦横三センチ程度のそれは、軽く、一見するとアクセサリーのようにも見えなくはない。


 条件付きとはいえ、こんな小さなものが人の死を肩代わりするとは……人類の技術の進歩というのは恐ろしいものである。


「最後に、討伐記録および不正防止のため、後ほどドローン型記録デバイスも配布する。諸君らについて行くようになっているので、気にせず戦ってもらいたい」


 以上、何か質問は? と登壇する教師が続けるが、俺も含めてその問いに手を挙げる者はいなかった。

 皆一様に、己の武器を手にして静かに、しかし目には闘志を燃やしている。


 それを見て満足そうに頷いた教師は、「よし!」と続けた。


「ではこれから、迷宮へ移動するので私の後をついてくるように。なに、迷宮は上の階層ほど広い。焦らずとも、ここの千人が潜っても問題ない広さだ。存分に競い合ってくれ!」


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どうも皆様、岳鳥翁です。

新作です。

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明日4/26は10:05と20:05の二回更新ですが、以降は5/5まで毎日10:05に投稿します。

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