敏腕エージェントの日常9

信仙夜祭

今日は、大失敗か~

「ふっ……。良いざまだな、他国の敏腕エージェントよ。今までは、散々煮え湯を飲まされたが、それもここまでだ!」


 今私は、捕まってしまった。布団で簀巻きにされている。動けないよ。

 しかも、他国の凶悪国家保安局にだ。もう終わりかもしれない。


「しかし、天下無双と言わんばかりに、情報操作から破壊工作まで熟した敏腕エージェントが、ハニートラップには引っかかるんだな」


 いえ……、違うんです。

 彼女がターゲットだったんです。他国の王族のお姫様だとは聞いていなかったんです。

 アルコールが入って、ちょっといい雰囲気になったので、部屋に連れ込んだら、君らがいたのよ。うちの上司を叱ってやりたい。情報不足だよ。


「海でサメとダンス……。山で熊とダンスもいいな。コンクリート抱えて、街中でさらし者も面白いかもしれないな。誰と踊りたい?」


 おいおい……。こいつ、危ない奴だ。

 この敏腕エージェントを捉えて、情報を引き出そうとしないとは……。

 私は……、こんな奴に捕まって終わりなのか?


 そう思った時だった。


 ──ガシャン


 窓ガラスが割れて、部屋の明かりが消える。それと、スモークだ。煙が部屋に充満した。


 ──パンパンパン


 銃撃音が聞こえる。その後、誰かに抱えられて、部屋から逃れられた。





 今は、車で移動中だ。

 どうやら嫁が助けに来てくれたみたいだ。王族護衛部隊を呼んだんだな。


「いや~、敏腕さん。危なかったですね~」


「平凡エージェントか。ターゲットが他国のお姫様だとは聞いていなかったのだが?」


「うちの上層部の失態ですね。後から気が付いて、応援に来ました。このまま、この国を去りましょう」


 文句の一言くらい言わせろよ。

 それと、何時まで簀巻きのままなんだ……。


「なあ、嫁よ。縄を解いてくれないだろうか?」


「安全が確保できたら、お聞きしたいことがあります。お姫様と部屋で何をするつもりだったんですか?」


 ふう~。一言でも間違ったら、明日の朝日は拝めそうにないな。

 私は未だ、絶体絶命の最中だ。


 



 こうして、今日もこの国の平和が護られた。

 敏腕エージェントの活躍は、終わらない。つうか、今回はなにもしなかった。

 終わりが見えない戦いは、今後も続いて行く――かもしれない。

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