夢幻の迷い路への備忘録

蒼雪 玲楓

繰り返しの果てに

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 それはつまり、今が10回目の今日であることを意味している。


 最初は変な夢を見たな、なんて思いながら毎朝のルーティンをこなしていた。

 違和感を覚えたのは耳に入った朝のニュース。

 あまりに聞き覚えのある内容に偶然を疑った。


 その疑念はすぐに嫌な確信に変わった。

 なにせ、終わったとはずの日の日付が聞こえてきたのだから。他のいくつもの媒体も同じ日付を示すとなると聞き間違いの線も消える。


 最初はその不可思議な出来事に困惑し続けながらそのまま一日を過ごした。夜になり、眠れば今度こそ次の日になっているとそう信じていたから。


 しかし、そんな都合のいい考えなどただの幻想にすぎないのだとすぐに突き付けられた。

 目が覚めてすぐに日付を確認すれば、進んでいない見覚えしかない数字がそこに並んでいた。


 そうなればまず一つ、自分が同じ日を繰り返しているという確信を持つことができた。

 理由は不明、原理も不明、同じ日を繰り返しているのが自分だけなのかも不明。あらためて考え始めると他にもわけがわからないことしかなかったが、逆に言えばそれがこの非日常を過ごす上での指標になってくれた。


 そこからは検証の繰り返しが始まった。

 最初に確認したのはどの程度の行動の変化から影響が出るのかだ。例えば、家を出る時間を五分ずらすような小さなものから最初の日とは全く違う行動を取ったりと幅を変えて実験を行った。


 その結果わかったことが二つ。

 一つは大筋を変えすぎるとその時点でもう一度ループの最初に戻ること。こうなると前のループで日を跨ぐのを待つことなく意識を失い朝に戻る。

 次に、最初の日から周囲の行動がずれるほど覚えていられる夢の内容が増えること。変な夢を見た、程度に朧気だった最初と比べて大きくずれを起こした次の朝ほど明瞭に長く夢の内容を覚えていた。


 ここから立てた方針はいたってシンプル。

 意識を強制的に失う限界ラインまで行動を変え、夢の内容を確かめる。これだ。

夢以外に自分の行動の影響に規則性のある変化が見られない以上、これを頼りにするしかない。


ひとまずは夢の内容を全て覚えていられるようにする。

ここがスタートラインだろう。

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