その崇拝は身を焦がす
ニノハラ リョウ
本編
ステージのライトを一身に浴びて。
今日もカノジョは輝いている。
そのことにボクは安堵の息を吐きながら。
狂おしい程の愛が苦しい。
ボクがカノジョを知ったのは、いつも乗り換えに利用しているターミナル駅だった。
ペデストリアンデッキになっているタイプで、二階部分にあたる改札を出れば、駅前のファッションビルに直接行けるよくある構造の駅だった。
そのデッキの上、中央部分のちょっとした広場になっているところで彼女は歌っていた。
今時ストリートライブは珍しい部類になると思う。
だけど……。
昼間の明るい日差しに照らされて、カノジョの周りだけキラキラと輝いていた。
だからボクは……。
この出会いを運命だと信じて、カノジョを推すことに決めた。
それからのボクのセカイはカノジョ一色で。
カノジョを目に映し、カノジョの歌声を耳にし、カノジョの一言一句を記憶に、記録に焼きつける。
そんな日々を過ごす中、いつの間にかキラキラ輝くカノジョを見つける人間は他にも出てきて。
カノジョはあっという間にアイドルへと昇りつめ。
いつしか手の届かない『ミンナのカノジョ』になっていた。
激戦と時の運を味方につけて、やっと手に入れたカノジョのコンサートチケットを持ってカノジョに会いに行く。
遠くに見えるカノジョは……本当に遠い。
だけど……ね?
カノジョに贈ったぬいぐるみのクマはいまでも彼女の枕元に飾られてるし(ボクの知らないカノジョの寝顔を見られるクマがウラヤマシイ)
そのクマはカノジョの話し相手となって、毎日カノジョの様子を教えてくれる(カノジョと話ができるクマがウラヤマシイ)
時にクマはカノジョのあられもない一人遊びを耳にして(カノジョの痴態を直接耳にできるクマがウラヤマシイ)
カノジョに抱きしめられて眠る(アァ! なんてウラヤマシイ)
だからボクは……。
ファンクラブ経由で届いたファンレターの返信とプチプレゼント(もちろん未開封。開けるなんてもったいない!)を支えに生きていける……はずなんだ。
例え現実のカノジョが、広いコンサート会場の上で、伸ばした手のひらと同じくらいの大きさにしか見えなくても……。あぁ、今ボクとカノジョの視線が交差した。
カノジョの頑張りが愛おしくて。
カノジョの笑顔が大好きで。
カノジョの……ゼンブがボクを……惹きつける。
いつかカノジョが『ミンナのカノジョ』ではなくて『ボクだけのカノジョ』になってくれないかなぁと夢想して。
ボクは彼女を推し続ける……はずだった。
「あの……? さっきコンサートに来てた人ですよね?」
カノジョの歌声を満喫した帰り道。
余韻に浸りながら夜道を歩いていたボクに不躾に声を掛けてきた人物がいた。
カノジョとの逢瀬を邪魔された気がして、ボクは些かムッとしながら振り返る。
「……なに……?! い゙っ?!」
バチンと激しい静電気にも似た音と衝撃と共に……ボクはゆっくりと闇に呑まれていった。
「……ここは?」
目を開ければ、そこは見た事もない部屋だった。
ご丁寧に手首に巻かれた拘束具は、傷が付かないようにか金具と手首の間に布が噛ませてあった。
左足に巻かれた拘束具も同様で、そこから延びたチェーンは、僕が寝かされていた重そうなベッドの足と繋がっていた。
蛇のようにとぐろを巻いているチェーンの様子から、外には出られなくともこの部屋と恐らくトイレくらいは自由に行動できそうだ。
だけどいったい誰が……?
ボクの疑問に答えるように、隣の部屋へとつながるドアが開いた。
そこから姿を現したのは……ボクが見間違えるはずもない……カノジョだった。
「あぁ! 目が覚めたんですね?! なかなか起きないから心配したんですよぉ! スタンガンの出力上げ過ぎたのかと思って。体にヘンなところないですか? でももし体がおかしくても安心してくださいねぇ? ワタシが一生面倒みてあげますからぁ!
もうっ! 最近全然会いに来てくれないから不安だったんですよぉ! せっかく
アレ、電池切れしないようにってせっかく光で充電できるお高いヤツ買ったんですよぉ! 開けてくれないから電池切れちゃったじゃないですかぁ!
そっちだけアタシのコト
あ、でもワタシの一人エッチは楽しんでくれましたぁ? ちゃーんとアナタのコトを思ってシたんですからね?
ずーっとずーっと応援してくれたアナタのコト、ワタシずーっとずーっと見てたんですよ?
でもそろそろワタシも我慢できなくてぇ。マネージャーさんもおっけーって言ってくれたしぃ!
アナタ一人くらい養えるくらいお金持ちになったんでぇ! 迎えに行ったんですよぉ!
ねぇだから……」
ワタシだけのモノになってくださいね?
……そうしてボクは『ミンナのカノジョ』の
その崇拝は身を焦がす ニノハラ リョウ @ninohara_ryo
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