ある日、世界の人間はボクだけになった

小阪ノリタカ

はじまり

目が覚めると、世界は静まり返っていた。


アラームの音も、隣の部屋の家族の声も、通りを走る車のエンジン音も、なにもかもがなくなっていた。


「……え?」


外に出てみると、街はそのままの形で残っているのに、人の気配が一切ない。自動販売機はまだ電気が通っているし、店のドアも開いたままだ。なのに、誰もいない。


スマホを開く。圏外ではない。でも、誰に電話をかけても、メールやLINEを送ってもまったく反応がない。SNSを見ても、最後の投稿は「おはよう」や「仕事行きたくない」といった、どこにでもあるようなものばかりだ。それが昨日の夜23時59分を最後に、ぴたりと更新が止まっている。


「もしかして……世界が……終わった?」


実感がないまま、街を歩く。食べ物もそのまま残っている。コンビニのパンも、レストランのテーブルの上の料理も、まるで誰かがさっきまで食べていたかのように。


けれど、人間はどこにもいない。


試しにテレビをつける。ニュース番組の映像は流れているけれど、キャスターはいない。スタジオは無人なのに、カメラだけが勝手に動いている。


何かのバグかもしれないと思って、一晩眠ってみた。でも、翌朝も状況は変わらなかった。


……本当に、ボクだけになったのか?


ボク以外、人間が誰もいない世界。


食べるものに困ることはない。好きな家を選んで住めるし、ゲームだってやり放題。でも、何をしても「楽しい」と思えない。笑っても、誰もそれを見てくれない。ツッコミを入れても、誰も返してくれない。


こんなの、つまらない。


数日が過ぎた頃、ボクは気づいた。


夜になると、どこからか視線を感じるのだ。


暗闇の中、誰もいないはずの街で、誰かが見ている。


ボクは、本当になのだろうか?

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