それを恋と呼んでくれたのは
昼月キオリ
それを恋と呼んでくれたのは
ある日のこと。
私は神社に行ってお参りをしていた。
街角にある小さな神社だ。
二礼ニ拍手一礼。
最後の一礼をした時、頭上を風が通っていった。
温かい風だった。
夏の暑い日だったのにそれが妙に心地良かった。
まるで優しく頭を撫でられているようなそんな気がした。
それから数日が経って私は風邪を引いて寝込んでしまった。
大好きな推しの写真やフィギュアやぬいぐるみに囲まれた4.5畳の狭いこの部屋で。
一人暮らしで心細くなって涙が一粒溢れた。
その時、気付いたんだ。
頭を撫でられている事実に。
熱で朦朧としながら薄っすらと目を開けた。
よく見えないけれど。
あれ、誰かが私の頭を撫でてくれている。この手の温かさあの時と同じだ。
そう、神社で感じたあの時の温かい風と同じだ。
これはきっと夢なんだ。
とても優しくて温かくて癒されるそんな夢だ。
どうか覚めないで。覚めないで。そう祈りながら眠りについた。
朝目が覚めた。
「夢か・・・」
布団から起き上がりポツリと呟く。
「いいえ、夢ではありませんよ」
その声がする方へ振り向いた。
ずっとずっと聴いていた愛しいあなたの声。
私は目を見開いた。
この現実を全てこの目に焼き付ける為に。
「ああ、夢じゃない・・・やっと会えたんだ、推しが会いに来てくれたんだ」
「はい、次元を超えてあなたに会いに来ました」
目が滲んで大粒の涙が溢れる。
あなたはそっと優しい指先で拭ってくれた。
これが夢でも、現実でも、もうどっちでも良かった。
目の前に大好きなあなたがいるから。
「私はあなたが大好きです」
気付けば伝えていた。
あなたは優しく微笑んで知っていますと。
「あなたは私をこんなにも大切に愛してくれています」
私がこれが愛か分からないと、誰にもそれが愛だと言えなかったと。
「俺には恋をしている普通の女性にしか見えませんよ?」
あなたはそう言った。
恋と呼ぶことをずっとためらっていたけどもう認めてもいいのかな。
だってこの感情を恋と呼んでくれたのは他の誰でもないあなただから。
「誰が何と言おうと、例えこの世界から太陽が消える日が来ても、あなたを愛した真実だけは消えない、そう思っています」
「あなたはこんな私を好きだと言ってくれるの?」
何にも上手くいかなくって、人として欠陥品だと思っていた私なんかのことを。
「はい、世界で一番好きです」
それから死ぬまで毎日。本当に毎日。
おはようございます、おやすみなさい、愛しています。
そう言ってくれた。
その愛しい声で。
あなたの言葉は最後まで優しかった。温かった。
それを恋と呼んでくれたのは 昼月キオリ @bluepiece221b
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