KAC20255 立ち直れない出来事……

久遠 れんり

人生において、最悪の過ちとは?

 塞翁が馬。後悔先に立たず。後の祭り。時すでに遅し。

 終了、オワタ……

 あなたは意味を知っていますか?


 大事なときこそ、人は気を付けなければいけない。

 私の身に起こった、最悪な出来事をここに記そう。



 そう、あれは高校二年の時。

「なあ、こんなのを見つけたんだが、誰か一緒に出ないか?」

 昼休みに、教室の前で吉樂きらくが叫び出す。


 それは夏休みに行われる、高校生向けのダンス大会。

 『天下無双の、高校生ダンスチーム決定戦 ― 弾けろ、青春は今だけ!! ―』


 彼が持っているチラシには、そんな文字が躍っている。


 私も、ふーんと言う感じで、特に興味も無かった。

「夏休みの中盤だしさ、どこかで合宿とかしてさ。来年は絶対できないし、どうだ?」

 音頭を取っていた、吉樂きらく君がそう言った時、少しずつ反応が出始める。


「それ、おもしろそうだな」

 本明 昴ほんみょう すばる君が、そう言って手を上げたとき、なぜか私の右腕はびしっと空に向かっていた。



「おっ、粗辻そつじさんも参加か?」

 吉樂君が私の方を見て、そう言ったとき、クラス全員から、ものすごく珍しいという感じで見られる。

 私は、粗辻 舞そつじ まい。実際、色々が面倒で動きたくないタイプ。

 その事は、クラスでも周知の事実となっている。


「うんまあ。何かを一緒にやるというのも今だけだし…… 合宿は海? それとも山?」

 当然だが、吉樂君は何でも適当だから、言ってみただけなのは判っている。

 

「そうだな。多数決でもするか?」

 そう言ったら、そこに食いついた人間が複数人立候補。


 無論、彼や彼女。ダンスは二の次。

 目的は、高校生二年の夏。男女で、合宿。青春の一ページだ。

 川や海。水場でお互いが、水をかけ合い、きゃははと戯れる。

 それは海でも山でも良い。


「実際踊るなら、十人くらいは必要だよな」

「会場は県民ホール?」

「今は、命名権を取った会社が付けた名前だな。暗黒の沼ホールだったっけ?」

「なんか、そんな名前だったな」



 そうして、ダンスチーム『塞翁が馬』の活動はその日から始まった。


 ダンスのジャンルを決める。それに合わせた楽曲の選考と振り付け、そして衣装。

 意外と時間とお金を使うことになるが、なぜか親達が張り切って援助してくれた。


 私の場合は、ぐうたらな娘が行動を始めたと言う事で、ものすごく驚いたようだが、皆はどうなんだろう?


 合宿会場は、田舎の廃小学校。

 宿泊施設と体育館があって、とってもお安く借りられたらしい。

 誰か親の出生地。つまり実家のコネだったようだ。



 今回、ぐうたらな私が手を上げた理由。

 ぐうたらでも、恋くらいはするのだ。

 だけど面倒だし、振られると嫌だし、踏み出せずにいた。

 でも、幾日か一緒に暮らせば、少しは仲良くなれるし。

 そうすれば、OKしてもらえる可能性だって、高くなるわよね。


 本明君、昴という名前の通り煌めくお方。

「うんと言ってもらえるように…… 大会までは頑張ろう」

 『舞、体が硬いね。僕と一緒に布団の上でストレッチをしよう』

「なんちゃって……」

 よこしまな妄想が、私の脳内を占拠する。


 

 学校では、部活の割り振りが決まっているので、体育館はステージすら使わせてもらえず。個人で振り付けを覚えて、合宿中に合わせるということになった。

 まあ無謀。だけど、曲があるから、このタイミングと覚えることで意外と合うようだ。


 一糸乱れぬ、シンクロタイプのダンスは時間が足りない。

 皆が、曲に合わせてバラバラに動き、止まるところだけを合わせる。

「これなら、揃っているように見えるか?」

 いい加減な人間が集まったが、意外と真面目に練習をする。


 運動しまくった後は、アイシング代わりに川へ入る。

 ものすごく冷たい水が気持ちいい。


 ただ思っていた様な和気藹々ではないが、楽しく、そして皆真剣だった。


 まあ最初は適当だったけどね。

 去年のビデオがあったらしく借りてきて、それを皆で見て、結構真面目に感動をした。


 地方の大会だし、明らかに参加するのに意義があるというチームも居た。

 だけどそれでも、一生懸命さは伝わった。


 そうして、告白ができぬまま、私たちは大会へ出ることに……


「そうよね、大会前に告白をするのは、きっと迷惑だし」

 負けたら、終わりだし。そしたら、告白をしよう。


「えーと、これで会えなくなるなんて嫌。私と付き合ってください」

 これだと、ダンスをすることになりそうだから、恋人としてを入れよう。

「これで会えなくなるなんて嫌。これからは、恋人として私と付き合ってください」

 いや最初に、好きですがいるかな……

 入念な予行演習。



 そうして、決意をして挑んだ大会。

 見事私たちは、踊りきった。


 トーナメントかと思ったら、全チームが踊り、最後に発表だった。


「待っているのはドキドキするね」

「ああ。でも皆頑張ったさ」

 私の隣には、本明君。

 普通に会話できるくらいには仲良くなった。



 そして、発表が五位から呼ばれ、二位まで。

 そこからは、敢闘賞とか、審査員特別賞とかが発表されて、一位は…… 当然私たちではなかった……


「まあ、結成から一月程度じゃ無理だな」

「あーうん」

 彼の言葉にそう答える。


 そして私は、気合いを入れて、言葉を紬ぐ。

「これで会えなくなるのは嫌。好きです。付き合ってください」

 言い切って、顔を上げる。


 そこには驚いた顔をした、吉樂君が……

 当然私も驚く。

 そして最悪なことに、気合いを入れたせいで、周りに聞こえていたのだろう。視線が集中。


 これは間違い。何とかしなきゃ。

 私は焦る。


 だけど、その後。もっと最悪な事が……

「いやぁ、折角だけど。粗辻と付き合うのは無理」

 私は、間違えた相手に告白をして、さらに間髪置かずに振られ、それを好きな人に見られるという最悪な失敗をしてしまった。


「粗辻ってぐうたらだからなぁ、まあ踊っていたときは、かっこよかったぜ」

 そう言って、彼はその場を後にした。

 微妙な空気感だけを、その場に残して……


 最悪なのは、私がぐうたらのところで、彼が…… 本明君が頷いていたこと……


 私はその日、布団の中で泣き続け、翌朝お母さんにおねしょと間違えられてしまった。

 私の人生において、高校二年生は、最悪の年と記憶に刻まれている。

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KAC20255 立ち直れない出来事…… 久遠 れんり @recmiya

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