12. 逆立ちごはんと王の試練――アーサー発情期戦記

 アーサーの発情が、本当に――強烈すぎた。


 まるで体が本能だけで動いているようで、ご飯すらまともに食べられない。

 目に見えて痩せていくその姿に、私たちは心配でたまらなかった。


 避妊手術ができる月齢までは、まだギリギリ。

 でも、この体重では麻酔に耐えられないかもしれない。


 このままじゃ、間に合わない……!


 ■ 「給餌大作戦」


 とにかく、食べさせなければならない。

 痩せ細ったアーサーに、少しでもカロリーを――!


 私たちは、子猫・母猫用の栄養缶詰を買ってきた。

 匂いの強いやつ、高カロリーなやつ。選びに選び抜いて。


 だが――アーサーはちょっとしか食べない。


 仕方がないので、あの手この手を使って、

 気を引いて、皿を差し出し、他の猫(つまりマーリン)に食べられる前に差し込むようにして……


 とにかく、試行錯誤の毎日だった。


 ■ 謎の「逆立ちごはん」スタイル


 ところが、アーサーにはとっておきの「食べるスタイル」があった。


 それが――「逆立ちごはん」である。


 たとえば:

 ・テーブルの上に置いたエアフライヤーの上

 ・立てて置いたヨガマットのてっぺん


 そこに登ったアーサーは、後ろ足をそのまま高い場所に残し、上半身だけ垂らしてご飯を食べ始める。

 姿勢は、まるで逆立ち。


「えっ、どういうポーズ……?」

 だが不思議なことに、その体勢だとたくさん食べるのだ。


「これが……猫の儀式……?」


「いや、王族独自の食事法なのか……?」

 理由はわからないが、食べるなら何でもいい。


 私たちはその姿を「逆立ちごはん」と呼び、日々祈るような気持ちで皿を差し出すのだった。


 ■ 新たな医者との出会い


 そんな混乱の中、ようやく――

 新しい動物病院の予約が取れた。


 今回の病院は、男女ふたりの獣医さんが共同運営。


 女医さん:台湾の獣医学科出身

 男医さん:イギリス(イギリス!!)の獣医資格持ち


 しかもふたりとも――猫飼い。

(※黄先生は犬派だった)


 この日、私たちを診てくれたのは女医さん。

 まずは通常の健康チェック。


「アーサーちゃんはね、避妊は10ヶ月以降かな。

 もう少し体重を増やしてあげてくださいね~」


 そしてひと言、

「もし発情が辛そうなら、お薬出しますね」

 なんか、この先生の落ち着いた声、めっちゃ安心感あるな……!


 ■ 薬の効きすぎた王


 ……ということで、帰宅後、指示通り少量のお薬を与えてみた。


 すると――

 一匹の猫が、ベッドの上で完全に沈黙。


 ふわっと丸まったまま、びくりとも動かない。


 あのアーサーが……360度回転して寝るアーサーが……

 ぺたんと、ぬいぐるみのように固まっていた。


「えっ……これ、大丈夫?」

 私たちは急に静かになった世界を前に、

 ホッとしたような、でもちょっと怖いような、そんな複雑な気持ちになった。


 結局――

 お薬、やめました。


 いや、アーサー王をぬいぐるみ化させるわけにはいかないからね!

(※アーサー王、薬に倒れる。笑)


 というわけで、今はただ、

 彼女がしっかりご飯を食べて、10ヶ月になるのを待つしかない。


 食べて、寝て、時々逆立して――

 王は今日も、成長中である。


 そして私たちも、逆立ちごはんのプロとして成長中……たぶん。


▼逆立ちごはん写真▼

https://kakuyomu.jp/users/Yukisawa/news/16818622175011105589

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