ルール破りの第0話

篠原宙兵

第0話

「えっ、交通系カード使えないの!?」


 高校受験の当日、最寄駅で俺の前の女の子が大層慌てている。

 あまりここら辺では見かけない制服をきた女の子だ。


「その、今持ち合わせがなくて……」


「困るねぇ、とりあえず親御さんに連絡を入れようか」


「今、親忙しくて……」


「……誰か、貸してくれそうな友人とかはいないかね」


「いないです……」


 今にも泣きそうな顔で必死に堪えているが時間の問題であろう。

 後ろも詰まってきたし、ただでさえ今日は大事な日なのだから皆イライラしている。


「どこからですか?」


「えっ!?」


「俺が一緒に払うんで値段教えて貰えます?」


「そそ、そんな悪いです!」


「210円だよ」


「はい、お願いします」


 女の子が否定するも、駅員さんもめんどくさかったのかさっさと値段を教えてくれ、俺は自分の切符と一緒に210円を渡した。


「はい、通っていいよ」


「あ、ありがとうございます」


「後ろもつまってるし早く進んでくれ」


「ひぇ」


 慌てて女の子は改札の外へと出ていく。


「あ、ありがとうございました!」


「いいよ。大した額でもないし」


「本当に助かりました。いっつもスマホとカードしか持ち歩いてなくて……」


「気にしなくていい、こちらとしても徳でも積んでおけばこの後の試験にいい影響が出るかもしれないし」


「徳……ですか」


「ちょっとした気休めだよ」


 いつも通り落ち着いてやればまず落ちることは無いはずだ、俺は。

 目の前の女の子みたいにテンパリさえしなければ。


「あ、あの、スマホの電子決済アプリにならそこそこ入ってるんですぐ返せるんですけど、やっていますか?」


「残念ながらまだ持ってもない」


「そ、そうですか……」


「だから気にしなくてもいい。あと追加でこれも貰っとけ」


 帰りの分の210円も渡してあげる。

 全てが終わってからなら親と連絡が着くのかもしれないが、念の為だ。


「う、うけとれません!」


「終わったあとに親と連絡取れるのか?」


「えと、その、あ、歩いて帰れます!」


「…………」


 問答無用で210円を握らせることにした。

 この寒空の下、歩いて帰るのは酷だろう。

 正確にどこから来たのかなどはわからないが、都会の方出身だと窺える。

 ここいらの子がICカードとスマホだけでお出かけなんてするはずがない。

 下手したら寒さにも慣れて無さそうだ。

 都会の住人が舐めてかかりノーマルタイヤで事故ったなどよく聞く話でもあるし。


「うぅ、その、絶対に返すんで連絡先だけでも教えてください」


「また会う機会があれば返してくれればいいよ。どうせ今日の目的地が一緒なんだから会わないってことは無いだろう」


「……はい、必ず返します」


「頑張れよ」


「はい! お互いに頑張りましょう!」


 多少は持ち直したのか、やる気満々にガッツポーズをしている。

 気合十分なのはいいのだが、足元が疎かになりツルッと滑って転びそう。


「ふぎゃ」


 転びそうだ、と思ってる側から転びかけてしまったのを仕方なく支えた。


「…………」


「あ、ありがとうございます……。何から何までお手数お掛けします……」


「とりあえず会場まで一緒に行こうか」


「……よろしくお願いします」

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ルール破りの第0話 篠原宙兵 @tyuhei

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