『雪だるま』

「雪だるまつくろうよ」

 と、君が言った。

 一年ぶりに積もった雪に、君は子供のようにはしゃいでいた。

 去年買ってあげたウールコートの長い丈が、彼女が歩くのに合わせて弾むように揺れる。

 首には淡い水色のマフラーを緩く巻き、毛色の柔らかな質感は、彼女の華奢な首を守るように寄り添っていた。手にはマフラーと同じ色合いのミトンの手袋。時折こすりあわせ、暖かさを確かめるように君が小さく笑う。

 その姿があまりに楽しそうなので、僕も雪だるま作りを手伝うことにした。

「こんなに積もる事なんて珍しいもんね」

 鼻息荒く、せっせと雪玉を作り始める君。

 僕は、まだ雪が汚れていない所を探して丁寧に雪玉を転がしていく。

 君は、自分の近くにある雪を手当たり次第に集めて雪玉を作る。

 そうして完成したのは、上下で出来栄えの違ういびつな雪だるま。

 器用な僕と、不器用な君との初めての合作は、お世辞にも綺麗とはいえなかったが、なんともいえない愛嬌があった。

 仕上げに君は、僕が被っていた帽子を奪い、雪だるまに被せる。

「来年、また雪が積もったら作ろうね」

 と僕たちは約束した。


 あれから一年。

 今年もまた雪が積もった。

 しかし、隣にはもう君は居なかった。

 僕は一人で雪だるまを作った。

 僕は器用なので、かたちの整った綺麗な雪だるまが完成した。

 仕上げに僕は、自分が被っていた帽子を雪だるまに被せる。

 去年よりもまるくて綺麗な雪だるまだったが、なぜだろう、どの角度から眺めても、今年の雪だるまは滲んでいびつに映った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る