アンダーザスカイ・オンリーワン・ダンスフロア

北 流亡

アンダーザスカイ・オンリーワン・ダンスフロア

「こんな場所で踊れというのか」


 ライガー・プルートは唖然とした。

 は、あまりにも小さく、あまりにも狭い。


「おい、ここが本当になのか?」

「ああ、図面にそう書いてあった」


 ロブは、眉を顰めて言った。スタッフで唯一、日本語が読める人間だ。


 ライガー・プルートは、自他共に認める、世界最高のダンサーである。そのパフォーマンスは、50人ものバックダンサーを伴う大掛かりなものだ。


「なあライガー、キャンセルしようか?」

「いや、ギャラは受け取った」


 ライガーは短く言った。

 一度受けた仕事オファーは絶対に放棄しない。その信条スタンスは、デビューして以来、ずっと変わっていない。


「しかしライガー、こんなところでパフォーマンスが出来るわけないだろ」


 あまりにも僅かなスペースだった。1人ですら満足に踊れるかどうか。

 ライガーは腕を組んだ。頭に浮かんでいたのは、昨日宿泊した温泉旅館ジャパニーズ・ホテルだ。


 日本人は寝る時に「cloth corps」なるもので寝ると聞いていた。ライガーは、その言葉に胸を躍らせていた。

 なにしろ「布のクロスコープス」である。どれだけ豪華絢爛で重厚な寝具なのか、期待が無尽蔵に膨らんでいた。


 しかし、実物を見てライガーは落胆した。敷かれていたの布はたったの2枚だ。


「おいおい、これが軍団コープスだと?」


 ライガーは失意のままに布団に入った。その2秒後には眠りに落ちていた。あまりにも、安らかな眠りであった。


 朝の柔らかな光を浴びながら、ライガーは思った。

 大切なことは見栄えや物量ではなく、込められた意味なのだと。


 ワビ・サビ・モエ。

 狭い日本だからこそ生まれた、小さなものに大きな意味を埋める文化。

 そうか、そういうことか。ライガーは悟りに至る。柔らかな布団を翼に変える。


「ロブ、ダンサーを呼んでくれ」


 ライガーは、ジャケットを脱ぎ捨て、まで歩を進める。

 は、コンサートホール「ノース・エール」の裏側のひっそりとした場所にあった。しかも屋外である。

 しかしながら、ライガーの脳内には、すべてが思い描かれていた。ダンサーのフォーメーションが、鳴り響く音楽ミュージックが、熱狂する観客オーディエンスが。


 バックダンサー全員が揃っていた。一糸乱れぬ隊列フォーメーションを展開していた。


「さあ、見せてやろうか、天下アンダーザスカイ無双オンリーワン舞踏ダンスを」


 全員が一斉に返事をする。予行演習リハーサルではあるが、その熱量は高い。


「ちょっと待ってください!」


 声がした。日本人が、こちらに向かって叫んでいた。


「ロブ、彼は誰だ?」

「この会場の窓口のスズキだ」


 鈴木は、血相を変えてこちらに走ってくる。


「こ、こんなところで何をしてるんですか!?」


 流暢な英語だった。ライガーは、ロブを手で制して前に出る。


「何ってリハーサルだが?」

「ここで踊るんですか!? ここ非常階段ですよ!?」


 ライガーは目をぱちくりさせた。


「ここが踊り場ダンスフロアなんだろ?」

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アンダーザスカイ・オンリーワン・ダンスフロア 北 流亡 @gauge71almi

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