第2話 借りた本

 修学旅行から帰ってきて数日後。私はかえでから借りたままの本を思い出した。今回借りていたのは修学旅行の時に散々話していたムロムソとは別の作品の本だった。タイトルを見る限りSF小説だ。


「SFかぁ。こういうのあんまり読んだことないんだよね。独自設定とかが多すぎてわかりにくいし……」


 あまり気乗りはしないが、友達に感想を伝えなければならないため、しぶしぶ本を開く。


 内容はこうだ。


 過酷な人生を歩んできた少女が通り魔に刺され、死亡し、それを哀れに思った神が少女を別世界に転生させる。少女は転生後の世界で最強となり、仲間を集めて、魔物や竜を倒していく。


 転生系の物語によくある話だ。


「これのどこがいいんだか。どうせ転生させるなら室町・戦国時代とか、せめて江戸時代とかがいいよねー。」


 自室で静かに呟く。共感をしてくれるのは誰もいない。まあ、いたら怖いが。


 長いSF小説も一時間かけて読み終わった。


 外はまだ明るかった。この時間なら……。


友達に本を返すため部屋を出て、玄関に向かう。靴を履き、家を出て、鍵をかける。


 空は紅に染まっている。先程、空を見た時は赤くなどなかったのに。早くしないと外が暗くなってしまう。とはいえ、焦るのはよくない。私はゆっくりと友達の家に向かって歩いていく。


 無事に友達の家の前に着いた。勇気を出してインターホンを鳴らす。人の家に来るのは慣れてないから少し緊張する。


 少ししてインターホンから声が聞こえる。機械越しだから誰の声かわからない。


「こ、こんばんわ。楓ちゃんはいますか?」


緊張して早口になってしまった。


 玄関の扉が開き、一人の少女が出てくる。


「あっ、楓ちゃん。本返しに来たよ。この本すっごい面白かったよ」


私は本を手渡す。本を手渡した後、楓から具体的な感想を聞かれたので、それっぽく答えた。楓は私の話に相槌を打ちながら聞いてくれた。


「よかった。楽しんでくれたみたいで。今度、ムロムソも貸してあげるよ」


「ありがとう。じゃあ、また明日。」


私は手を振る。楓は私に手を振り、扉を閉じた。


 そして、私は楓の家に背を向け歩き始めた。その頃、空はすっかりと暗くなっていた。反射材を着用するべきか悩んだ。しかし、楓の家から自分の家まではさほど遠くはなかった。


 結局、私は反射材を付けずに歩くことにした。少し罪悪感で胸が痛い。


 見慣れた道をゆっくりと歩いていく。


 家までもう少し────だったはずなのに…。


 突然、背中から衝撃が走る。私の体は自然と前に倒れる。


 動けない。血がどくどくと流れる感覚がする。そして、だんだんと眠くなる。寝てはいけない、ということはわかっている。しかし、体は言うことを聞かない。


 私は静かに目を閉じた。



 次に目が覚めたときには白い空間にいた。何も見えない。なんだここ。


「おや、気づきましたか?」


知らない人の声が聞こえてくる。声からするに女性だろう。


内沙ないささん。あなたは先程、車に轢かれて死にました。」


 あれ?この流れはもしかして…。私は楓に借りた本のことを思い出した。死に方は違うがこの流れはおそらく……転生する流れではないか。


「あなたは小学生の時にクラスメイトから陰口を言われ続けて。中学校に入ると同時に転校をしたのにも関わらず、数人からは冷たく当たられる日々だった。そして、中学でできた好きな人にも裏で悪口を言われる始末」


「いや、人の思い出したくない過去を言わないでくださいよ。」


私は冷静に返す。


「あら、それはすみません」


女性は感情のこもっていない声で返す。


「それで、そんな哀れなあなたに転生をさせてあげましょう。」


「さっきから失礼な方ですね」


 女性は私の声を無視して話しを続ける。


「世界や時代、自分の持つステータスを自由に選ぶことができます。」


 私は少し考えた。


「あの…これって、私がいまま生きてきた世界の室町時代に転生することってできます?」


「ええ、可能ですよ」


その言葉を聞いて、私は心の中でガッツポーズをした。そうとなれば、私の希望はただ一つ。


「では、転生先は私が生きてきた世界の室町時代でお願いします。それと、性別は男、ステータスはランダムで。」


「よろしいのですか?」


女性は問う。私は首を傾げた。


「ステータスがランダムということは、場合によっては……」


「いいんですよ。これで。むしろこっちの方が楽しいですし」


私は女性の話を最後まで聞かずに答える。この選択が吉と出るか凶と出るか。


「……わかりました。では、あなたを今から転生させてさしあげましょう。」


女性の声とともに変な音が聞こえた。耳が痛くなるほどの高い音だった。

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