第55話次を見据えての考察と戦略。
「さて、伊勢の北畠を南に押し込め、後は消耗戦ですり潰せば終わりとなった現状、来る上洛を見据えた上で、後々の伊勢の統治を鑑みれば、次に我が織田家が目指すのは、南近江の六角になるじゃろう。」
懐から簡素な南近江の地図を出した。
「あの、殿?何故に南近江なのでしょうか?
我が家の本拠地・美濃の地勢から観れば、尾張・北伊勢を経由して、南近江に攻め込まずとも隣接している、北近江の浅井を攻め取ってからの方が良いのでは?」
素朴な疑問を秀吉に投げ掛ける浅野長吉。
「まず大義名分がござらん。
浅井家は斎藤家と婚姻同盟を結んでこそいたものの、我が織田家と斎藤家の争いには一切関わっておらず、斎藤家にも援兵すら送っておらずに傍観に徹していた為、こちらから攻める名分がないでござる。」
「・・・あ、確かに。
斎藤家との婚姻関係を以て攻めるのは、幾ら何でも無理筋ですしね。」
脇からの竹中半兵衛の説明に、納得してコクコクと頷いた長吉。
「それに伊勢の如く浅井に反目する、北近江の豪族や土豪を手引きの元にし、半ば強引に侵攻したとしても確実に朝倉が敵に回り、美濃を脅かすからでござるよ浅野殿。」
「はて?何故越前の朝倉が?」
首を傾げる。
「両家の関係は「
両家の事情を解説する。
「この関係は朝倉きっての名将・朝倉宗滴が、浅井の初代を援助した所から始まっている、数十年という積年の関係であり、この関係を切り崩すのはほぼ不可能。
故に浅井を攻めれば自動的に朝倉を敵に回し、逆に朝倉を攻めれば浅井を敵に回す、といった事になるので、何とか浅井を大殿は婚姻で味方に付け、最低でも朝倉を中立な立場にしようとしている訳です。」
ノッブの思考を読む。
「う~ん、しかしながら美濃・尾張・伊勢を勢力下に持つ、今の我が家であれば2家を敵に回しても、どうにかなるのではないでしょうか?半兵衛殿?」
「どうにかなって浅井・朝倉を倒しても、今度は
両家を攻める事へのリスクを滔々と述べて、
「それに加えて最悪の場合は、加賀一向宗に呼応して伊勢長島一向宗も、同調する危険性がある故に、その様な厄介事を抱える愚を犯すのは、尚の事に避けるじゃろうしのう。」
秀吉が補足する。
実際にノッブはその辺のリスクを考慮し、上洛するまでは慎重に両家との、友好関係の維持に注力している節があり、浅井との婚姻同盟はその一環と思われた。
(ま、その用心深さも、上洛戦であっさり近畿圏を制圧しちゃった事と、一向宗の本山・石山本願寺自体が、ノッブの数万貫の
見通しが甘いよなぁ、と脳内思考する。
それに対して本願寺・一向宗には、高額の矢銭要求の後に本拠地・石山の明け渡しや、自主退去を要求するといった、かなり無遠慮な行動をとっており、信長包囲網に一向宗が加わる要因を作っているのである。
軍事的に相手を過少評価して、惨敗をしょっちゅうしているノッブだが、外交的にも相手を舐めてかかって無体な要求をして、不必要に敵を作っているのであった。
それはさておき、
「ついでに言えば六角は、北伊勢に強い影響力が有る上に近しい親族が居って、伊勢侵攻の
そう言った事情故にこれ程我が家の、伊勢統治に厄介な存在もなかろうよ。」
だから六角討伐が優先じゃと告げる秀吉。
「成る程、それなら納得できますね。
無闇に
優先順位を理解した長吉。
「だけどもそれだと兄者。
優先順位と必要性は判ったけど、肝心の攻め込む為の大義名分はどうするの?
浅井と同様に取っ掛かりが無いでしょ?
逆に向こうさんは姻戚関係を持ち込めば、幾らでもこちらを攻め込めれそうだけど。」
長吉とは別の疑問を提示する秀長。
「それに関しては秀長殿、越前で将軍に成りたくてたまらないのに、一向に上洛戦に動かない朝倉にやきもきしている、
チラッと信吉を観た後に、秀長の疑問に答えた半兵衛。
「現状の六角家は当初の義昭支持から転向、三好家の擁する義昭の従兄弟である、義栄の支持に回っております。
つまりは先代将軍を弑逆し、天下の悪行を成した三好家に味方している為、実弟の義昭を担ぐ事で悪逆非道に味方する六角家を討つ、という大義名分が成り立つ訳ですよ。」
「う~ん成る程、それなら・・・。
けれども半兵衛殿、朝倉が義昭という貴種を簡単に、手放すとは思えませんけども?」
再び別の疑問を述べる秀長。
「いえいえ秀長殿、朝倉ならば喜んで確実に義昭を手放しますよ。」
「はい!?何故に!?」
「現状で義昭が居るせいで、浅井・朝倉の相互関係運用に支障を来しているからです。」
秀長の素っ頓狂な問い掛けに、微苦笑を浮かべつつ理由を答えた。
「???・・・浅井・朝倉の関係性は半兵衛殿の説明を聞いて、なんとなしには理解しましたが、それに義昭がどう悪影響を及ぼしているのかがサッパリ・・・。」
幾つもの疑問符を浮かべ、首を傾げる。
「浅井の現況を知れば解るかと。
北近江の伝手に拠れば現況の浅井は、急激に兵力を増した六角に、戦線を押され気味であり、徐々に苦境に陥りつつある様です。」
「急激に六角が兵力を増強したと?何故?」
「さて何故だと思いますかな、信吉殿?」
秀長の問い掛けを信吉に振る半兵衛。
「え~とまぁ、六角が義栄派に属した事で、三好に備えていた防衛戦力から、対浅井に向けて兵力を抽出する事が出来た、と言った所でしょうねぇ。」
振られた問い掛けを信吉はスラスラ答えた。
「・・・ふむ、やはり信吉殿もその様に考えますか。」
「ええ、兵が降って湧くモノで無し。
となれば義栄派になった事で、三好家の主導権争いをしている三好三人衆側や、松永久秀側からも同じ派閥の義栄派として、「自分に味方してくれれば良し、相手側に味方するよりはマシ」という、両方から友好的中立の立場を得れますので、少なくとも主導権争いが決着するまでは、攻め込まれる余地は無くなっていますから、そちらの備えが浅井に回ったと観るのが自然でしょう。」
理由を理路整然と答える。
「ふ~む・・・言われてみれば成る程。
強大な勢力である三好家の備えが、対浅井に回ったので有れば、急激に兵力が増したのも極自然な話だね。」
コクコクと理解を示す秀長。
「しかしよう信吉、戦上手と評判の浅井長政が、そう簡単に負けるとは思えねーがな。」
蜂須賀小六の問い掛けに、
「まぁ、纏まった軍同士の一点で衝突して戦う、
浅井は物量差でジリ貧になっていると語る。
今の浅井家の状況を史実で例えるなら、アメリカの「南北戦争」の如く、アメリカ屈指の名将と呼ばれた、ロバート=リー将軍を擁した南軍に近かった。
軍同士の合戦に於いては、兵力差で劣りつつも圧勝して北軍を破り、北軍を追い詰めていった南軍だったが、戦線が膠着状態になって消耗戦になると、北軍に比べて物資・兵力と共に半分以下の南軍は、徐々に深刻な物資不足に陥り、最終的に戦闘能力を喪失。
そうして武器・弾薬の尽きた南軍は敗北し、※陸戦の勝率では分が悪かった、北軍のリンカーンが勝者として歴史に名を刻んだ様に、浅井と六角の争いも司令官の能力よりも、地力に因る純粋な物量差で、勝敗の軍配が上がりつつあったのである。
(※・・・陸軍は倍する兵力を持ちながら連戦連敗を重ね、首都の約30キロ地点まで押し込まれ、中盤戦になって戦争開始時の戦線に、漸く押し戻して維持したぐらいであり、戦争中の4年間に軍の総司令官が、5人も変わるグダグダっ振りであった。
その内の後半の3人は初期階級が中佐であったが、上司が次々と
「う~む、確かに地力勝負となると南近江を押さえて、長年の領地経営の蓄積があり、穀倉地帯を持つ六角の方が有利か・・・んで、それがどうして義昭を朝倉が、喜んで大殿の許に手放す事に繋がるんだよ信吉?」
再び疑問符を浮かべる小六。
「ジリ貧になっている浅井は、恐らく
「ああ、それが半兵衛どんが言っている、相互関係に支障を来しているってこったか。
理由は何だよ理由は?」
信吉に目線で解答を促した。
「現状朝倉は義昭を擁しており、六角は義栄派に属しています。
そんな状況下で浅井に援軍を送って、六角と事を構える状態にしてしまうと・・・?」
「と?・・・あ!浅井と六角の近江国内での抗争処か、自然と義昭と義栄の将軍位争奪戦の、前哨戦に拡大解釈されて、天下の一大事に発展しちまうのか!!」
信吉の発言を聞いて思い至ったのか、ポンと手を叩いて答えを導き出す。
「その通~り。
しかもそれが呼び水になって、近畿の覇者・三好家という難敵を、自動的に呼び込んでしまうオマケ付きです。
ついでに一大事に発展したらしたで、
ノッブに足利将軍位の後継者騒動に関わる、利害得失を述べた様に、小六達にも利害得失を教示する信吉。
「オイオイ何じゃそりゃ小吉?
大軍を発して義昭を将軍位に就けても、義昭から貰えるモンは実体の無い、幕府の役職任命書の紙切れ1枚ってか?
勝っても大赤字で、負けたら地獄って最悪じゃねーかそれ・・・。
そりゃあ朝倉も六角も、散々先代の時分にえらい目に有ってるんだから、間違っても義昭を奉じる筈ねーわな。」
弟の信吉の言を聞き、全く上洛の意思を見せない事に納得顔の杉原家定。
「成る程・・・そういう理由なら2重の意味で厄介者の義昭を、朝倉は手放したくて仕方がないでしょうねぇ。」
「ええ、そう言う事っス茂吉さん。」
堀尾吉晴に同調する信吉。
「しかしながら朝倉にとっては疫病神でも、
しかも上洛した時には、朝廷から頂く「王城鎮護」の
その分害も大きいけどと、脳内で付け足す。
実際にノッブは三好長慶が、最大勢力にのし上がったプロセスを踏襲し、上洛して義栄を京から追った後にノッブは、朝廷と幕府の権威を以て瞬く間に近畿圏を平定していた。
「つまり我が家は上手くいけば、濃・尾・勢に加えて南近江、そして三好家の持つ近畿圏をも飲み込んだ、一大勢力にのし上がるって事か小吉!?」
「ええ、天下一の大勢力に躍り出ますね。」
「「「「「おおっ!!」」」」」
前野長康の問い掛けに信吉は答え、信吉の言に色めき立つ面々。
織田家が伸長するのは即ち、自分達もそれに応じて伸長=加増の余地に成る為、興奮するのも無理はなかった。
「待て待てお前等、落ち着かんかい。
まだ南近江も制しておらんのに、気の早い想像をするんじゃない!」
そう言って家臣達を
「ふ~む、浅井の外交担当をしておる不破殿が、ここ最近急に態度が軟化しておると、殿に報告しておったが、小吉の言う理由が有るならば朝倉が当てに成らぬ故、ウチに愛想良くなったのも頷けるのう・・・。」
信吉の予想を裏付ける出来事を話した。
秀吉曰わく、斎藤家滅亡後も粘り強く交渉していたらしいが、長政は言を左右にして、イマイチ乗り気で無い態度を取っていたのに、今年に入ってから徐々に態度が変わり、今では乗り気満々になっているとのこと。
(まぁそりゃあなぁ・・・ジリ貧で切羽詰まっている現状で、肝心の朝倉の援軍が潰れちまってる以上、後はウチしか当てが無いんだから、至極当然ちゃあ当然だわな)
そりゃそうなるわなと納得して、
「なれば殿。
大殿様には浅井を焦らして、出来る限り良い条件即ち、向こう側から
秀吉に提言した。
「ふむ?どうしてじゃ?
一刻も早く同盟締結した方が、ウチの利になるだろう?」
「確かに織田家の利にはなりますが、我が木下家の利にはあまりなりませんので。」
それだとウチの儲けは少なくなると、堂々と秀吉に諭すゲス。
「・・・ほう、理由を言え。」
「はい、あまり急くと殿が得意とする、調略の余地即ち無血の功績の立てる場と、間が無くなり手柄が半減する上、敵地・敵状を知らずに目暗状態で、六角との戦に臨む事になる羽目になります。」
厳しい目線を送る秀吉に、理路整然と木下家の利害得失を述べる。
「ふ~む・・・確かに一理あるな。
前の勅使下向の際、山中家との繋がりを得て話した時に、先代の承禎は兎も角、当代の義治には大分に不満を持っていた故、調略する余地は十分にありそうじゃしな。」
腕を組んで思考後、信吉の提言に頷き、
「木下軍の軍配者として、某も信吉殿の提言には賛成しまする。
少しでも無用な戦闘を避け又、敵地の地理・
それらを疎かにするのは、負けるべくして負けるのと同じにござる。」
半兵衛もコクリと同意する。
「半兵衛も同意か。
しかし殿への言い訳はどうする小吉よ?」
「焦らして浅井から望む形に仕向ければ、大殿様の
そういった上で、
「ついでに外交的に浅井から、我が軍の領地通過・通行の許可を、同盟締結の条件に盛り込み易くなる利点も有るので、担当の不破殿に功績の立て処を提供する事で、味方に付けれる利もありますので。」
秀吉・不破のオッサン・ノッブの3者に、利のある献策をする信吉。
「ハッハッハッハ!!抜け目ないのう小吉!
儂や殿でなくてもそれなら頷くわい!
良し、その様に殿には提言をしようぞ。」
膝を叩いて笑い、信吉の策を承認する。
「それで敵状調査はどうする?」
「その辺は小六さんの手下である野伏せりを、六角方の賄い兵として城砦に潜り込ませ、密偵として活用するべきかと。」
「ほう、ウチの手下を
自身を指差して信吉に目線を送った。
「ええ、小六さんの所じゃあ、お家芸みたいなモンでしょ?」
「ワッハッハッ、
それで俺は生き延びて来たんだからな!
任しとけ!その手に慣れた奴らを、六角方に送り込んでやらあな!」
ドンッと胸を叩き、快活に笑って了承する。
こうして大まかな次を見据えた、行動の指針を表した秀吉達は、細かい事を煮詰めて行き、引き継ぎなどの段取りを取っていく。
「・・・良し、とりあえず儂の留守中は、寧々を統括代理人として置くから・・・小吉テメェ、儂の留守中に何か仕出かしたら、覚悟しろよ?おい?」
「はい!?何で!?」
据わった目で自分を睨み付ける秀吉に、素っ頓狂な声で疑問符を浮かべる。
「アホ!誰がテメェみたいな問題児を、野放しにするバカが居るんだよ!?
儂の留守中は寧々をお前の監視役につけるし、部下の慶次達が仕出かしても、連座で寧々にシバいて貰うからな?
後、従軍時には絶対お前等一党も連行して、何ぞやらかしたら寧々に報告するから。」
ギリギリと信吉の肩を掴んで宣言する。
「そ、そんな理不尽な!?」
「うるせー!!お前だけには言われる筋合いはねーわいボケぇ!」
俺の労苦の一端を味わえと、呪詛じみた言葉を信吉に送る秀吉。
こうして信吉は
続く
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