第53話事後と今後。
「・・・では皆の衆、木下家定例会を行う。
何時も言っておるが遠慮会釈は要らん!
忌憚なく意見を述べる様に!」
「「「「「ハハァ!!」」」」」
秀吉の言に一斉に頭を下げる幹部家臣達。
1567年9月、秀吉が順調に出世を重ねた結果、木下家の身代は1小隊の下級武士クラスから、1軍団程の準大名クラスまでに拡大し、それに応じて各幹部家臣達の職権も拡大した事から、各現状の把握と情報の共有、それぞれの意見や問題点の摺り合わせを行うべく、秀吉の都合に合わせて月1の割合で、定例会を開催していた。
出席者は主催者になる秀吉を始め、実弟の秀長や義弟の信吉や浅野長吉、義兄になる杉原家定や義伯父の家次、一族一門外で古参になる前野長康や蜂須賀正勝、新参だが木下軍の
「・・・では俺から。」
真っ先に幹部家臣で口火を切ったのは、木下家の財政と軍需物資調達を担う、杉原家次であった。
家次は木下家の現段階での、金銭出納の財政状況を述べた後、現状に於ける矢玉・武具や兵糧といった、軍需物資の備蓄状況を
「・・・つー訳で、現状の財政状況は多少の
それと思ってもみない現金収入があったが、コレはいざという時の非常予備金に、置いて置く事を俺からは提言したい。」
チラッと信吉を観て締めくくった。
「そんじゃ次は俺から。」
家次に続いて口を開いたのは、前線での指揮や軍の調練といった主にハード面を担う、軍事面での副将格・正勝である。
「ウチの軍の練度は他家に比べても高い水準にあるし、新規に募兵を募ってもウチは人気が有るから、粒選りの者が寄ってくるので士気も
そう言って正勝も信吉をチラ見した後に、事実上の軍部のトップ・半兵衛に、意味ありげな目線を投げかけた。
「では正勝殿の意見を受けて・・・信吉殿、貴殿の「信吉隊」と言うよりも貴殿も含め、少しは自重して頂きたい。」
困った表情で信吉に自重を促す半兵衛に、
「そうじゃそうじゃ!
半兵衛の言う通りじゃ、小吉コノヤロー!」
「「そうだそうだ!!」」
尻馬に乗っかって憤りを見せる、秀吉・長吉・家定の義兄弟。
「え~?俺、何も悪い事してないですよ?」
謂われのない槍玉に上げられ、自身を指差しつつブーたれる信吉。
「どアホ!
能天気な義弟に怒声を浴びせ、
「そりゃね?
世話になった亡き生駒の方の御息女・徳姫様に、世話になったお礼に何ぞ贈り物をするべきでは?っていう提言を、お前がして来た時に儂も「確かに」と認めたよ?
だけどね小吉くん?
あんな想像の斜め上と言うか、とんでもない大騒動になる贈り物をしろなんて、一言半句も言っていないよね儂?
何なの小吉くん君は?事有る事に騒動を起こさないと気が済まないの?フフフッ?」
怒り笑いと言うべき不思議な表情を浮かべつつ、信吉を見据える秀吉。
6月に信吉が引き起こした「トリックアート騒動」により、秀吉はノッブに鬼詰めされるだけでなく、家康や周囲からも被害を
「オイ、小猿貴様、徳川にそれはそれは大層珍奇なモノを贈ったそうじゃな?
無論、儂の分も有るよのう?うん?」
じろりと信吉を観る。
7月、脇息にもたれ掛かって、「イエスかはい」しか返事は許さんとばかりに、秀吉に
「そー言われましても・・・無い袖は振れませんけど?」
ノッブのプレッシャーもなんのその、あっけらかんと「ムリ」と言い切り、首と手をブンブンと左右に振る信吉。
「・・・ほほぅ?貴様は儂には振る袖は無いと申すか?
ではその袖から
素気ない信吉の返答に、こめかみに青筋を浮かべて小姓から刀を受け取り、鞘から刀身を
「いやあのですね大殿様?
枯れ木の絵に花を咲かすなどといった、摩訶不思議な超常現象を、神ならぬ私が出来る筈無いでしょうに。」
やれやれと肩を竦める。
「抜かせ小猿!
貴様以外に誰が居るのだ!?」
「その竹筒、実は貰い物でして。」
刀を振り上げているノッブに、堂々と大嘘をぶっこくゲス。
「なぁ~にぃ?貰い物だぁ!?」
「ええ、姫様と共に三河に向かう途中、大殿様を見習って熱田宮に参拝した折、境内の森でどことなく気品のある翁に出会い、件の翁から貰いました。」
「ほ~う・・・で?」
「はい、え~と何でも
「霊薬ぅ?胡散臭い事この上無いのう。」
思いっ切り訝しげに呟く。
「ええ、私も当然胡散臭く思いましたので、2つ貰った内の1つを
「うん?と言う事は・・・件の霊薬とやらはもう1つあり、貴様持っているのか!?
疾く寄越せ小猿!!」
持っていた刀を無造作に放り投げ、キラキラと純真な子供の様な輝く目で、手を突き出すノッブさん
因みにノッブが放り投げた刀は、近くに居た秀吉の鼻先数ミリ前にストンと突き刺さり、秀吉は「うおおぉぉ!?」と声だけは、勇ましげな雄叫びを上げつつ後退りをしていた。
「いやあ、残っていた霊薬とやらは、姫様の時に使い切っちゃいました。」
「なにぃ!?貴様ぁ何たる事を!?」
「ぐえぇぇぇ!?」
「ちょっ!?殿!?落ち着いてお平らに!」
悪びれもせず、後ろ手を頭に置いてヘラヘラしている信吉に、怒り心頭な様子で首を締め上げるノッブと、慌てて仲裁に入る森可成。
~~~現在すったもんだの大騒ぎ中につき、暫くお待ちください~~~
「あ~ゴホンゴホン・・・うんん!
しかしその翁とやらは一体何者ぞ?」
「うぇ!ゴホゴホ!・・・うんん!
さぁ私に聞かれても・・・ああ、一応素姓を尋ねた所、「寺に有る重い鐘の様な者」とか言ってはいましたが。」
何事も無かったの如く話を続ける2人。
「ふむ?重い鐘の様な者、とな?
・・・もしや件の翁は知恵の神、「
が・・・神なれば摩訶不思議な事を起こしても、何らおかしくない、か。
ううむ・・・しかし・・・だがそれでなくば説明が付かぬのも事実。」
自問自答に入ったノッブ。
(ウッヒッヒッヒ・・・ノッブが混乱しとる、めっちゃ混乱しとる。
俺流「困った時の神頼み」作戦、成功せり)
脳内でニヤリと口を歪める。
家康とのコネクションを来る将来に備えて、繋がりを太くする為に画策したトリックアートだったが、信吉は無論、ある程度の騒ぎになるのは想定済みであったし、バカ正直にトリックをバラす積もりも毛頭無かった・・・面倒くさいから。
世界レベルで近世までは化学水準が低かった為、時代の水準に準拠して説明の付かない超常現象(例:落雷等)は、尋常成らざるモノ=神の御技と解釈され、有る現象は吉兆として喜ばれたり、逆に凶兆として忌避される事が当たり前であった。
そして信吉は、わりかし逆行転生者さんの中にいらっしゃる、「内政チート」だの「知識チート」だのと、時代の化学水準を越える様な事は、全くと言って良い程していないので、フツー(?)のチート転生者だったらほぼ100%の確率で、散々チートを披露した影響で疑われるホラ話をしても、信仰心と言うよりは迷信の思い込みにより、信吉の言は逆に一定の信憑性があり、ノッブの様な開明的な人物にも通用したのである。
(フッフッフッ・・・とりあえず面倒事は、神様の
う~ん、便利な方便だわこりゃ)
今後も何か事が有れば利用しようと、内心で算段する不信心の極みなドゲス。
こうして信吉は、「仏敵」と罵られたノッブが霞むぐらいの、不信心と不敬さでノッブの要求と追及を煙に巻き、ノッブや周囲との面倒事を上手く回避。
そして摩訶不思議で超常現象な騒動の、根本的要因人物として秀吉の名が、織田領内だけでなく徳川領内に於いても、騒動の内容と共に広まったのであった・・・此処までは。
この摩訶不思議で超常現象話に、異常なまでに食い付いた人物達が現れ、秀吉はモロにそのとばっちりを喰う事になるのである。
その人物達とは信吉の嫁さんの父で、義父の山科言継と朝廷であった。
騒動の
後に言継の手紙に依れば、「応仁(の乱)前後から禁裏には凶報しか届かず、暗く沈んでいた所に、最近になり漸く信吉の無私の献金と言う、朗報が来た上に吉報が舞い込んだ事で、「不甲斐ない朕の御世にも救いが有ったか・・・朝廷ひいては日の本の
因みに言継の手紙を読んだ信吉は、「そりゃ婚姻に関連してるから慶事には違いないけど、何で朝廷が吉兆と喜ぶんだ?」と疑問に思い、その辺の有職故実に詳しそうな、学者の家系である涼先生に聞いた所、
「それは場所が大いに関係していますね。」
あっさりと理由を告げる。
「場所、ですか?」
「ええ、修理少進様が、「オモイカネ神」に出会ったとする熱田宮は、禁裏の神聖なる三種の神器の1つ・
熱田宮と朝廷の関係性を語り、
「又、花咲翁と灰の事は存じ上げませんが、伊勢の明星井は
つまりは伊勢神宮との関わりが深く、其処から作られたとされる霊薬も、朝廷と禁裏とに深い繋がりを持つ、伊勢神宮にも紐付いていると言える訳ですね。」
伊勢神宮と朝廷との関係性を述べた。
「え~と要するに、朝廷及び禁裏との深い関係性のある、2つの社から発生した慶事だから吉兆って事ですか?」
「まぁそう言う事ですね。」
信吉の要約に頷く涼先生。
(うげげっ・・・面倒事を避ける為にテキトーに
ど、どないしょー?どないにしょ?)
アワワと脳内で口に手を入れる信吉。
信吉の焦りを余所にどんどん話は大きくなり、正式に朝廷から調査確認の使者が、再び織田家に来る事となり、満場一致・問答無用で秀吉が使者の
そうして8月、訪れた朝廷の使者を饗応した秀吉は、徳川家の事実確認にも同行する事になり、数十人規模の目撃者に聞き取り調査を行った使者は、正式にトリックアートを「神の御技」と認定。
珍奇な神宝っぽい由来を持つ絵(実費50文=約5百円)が、朝廷の公認により名実と共に、この世に2つとない神宝(時価換算不能)に昇華した事で、俄かに「神様が降臨した熱田宮詣りフィーバー」が尾張を中心に発生。
同時に三河では「神の御技を俺は観た!」と、狂喜乱舞した徳川家臣達トリックアートの目撃者を中心に、一向宗を始めとする仏教から、神道に宗旨替えする者が続発。
徳川家の本拠地・岡崎に、「思兼神」を祀る神社が建立されるなど、信仰心が暴走と迷走の両輪で高速回転するのであった。
そして調査の使者に随行し、三河に赴いていた秀吉は三河衆から、「名誉三河衆」という名誉国民に近い称号を得て、VIP待遇でもてなされた上に神宝をくれた返礼として、徳川家重代の家宝・村正の刀や、5百貫もの銭を家康から貰ったのであった。
当然当初の秀吉は、徳川家からの返礼を断って固辞していたのだが、そうこうしていると徳川家臣の1人が、いきなり庭に飛び出して上半身を脱ぎ、「我が家の返礼が気に入らぬと有らば、我が身我が命を以てお返し致す!」と、「切腹返礼」とでも言うべきか、ある種の脅迫外交が発生。
「ちょちょちょっと待った!?待って!?」と、大慌てで止めに入った秀吉は結局、贈り物を貰う側が折れて貰うという、あべこべな状況になりつつ帰国。
そして件のトリックアートは、竹千代と徳姫夫婦に贈ったモノなので、夫側の徳川家が返礼した以上、当然妻側で主君でもあるノッブも、秀吉に
秀吉も秀吉で、徳川家からの返礼を貰ってしまうと、そうなる事を理解していたので、断っていたのだが結局断り切れず、青筋と笑顔を浮かべたノッブからの、褒美を貰う羽目に陥り、戦々恐々とするのであった。
それはさておき、
「良かったじゃないっスか殿。
降って湧いた棚ぼたで家禄の加増と、銭を貰えたんですから。」
「全っ然良くねーよ!張っ倒すぞテメェ!?
能天気な信吉の感想に、かなりキレ気味に反応する秀吉。
「前回の勅使下向と官位任官の時以上に、織田家中で儂は針の
その上殿にはウダウダ愚痴られるし、徳川家の外交担当まで押し付けられて、席が暖まる間も無い程多忙になっちまったし。」
ドンドンと肩を落としてトーンダウンし、愚痴る様に告げる。
「頑張ってください殿。
俗に「
「ハァ・・・まぁのう。
結局はいつも通り、実力を示して周囲を黙らせるしかなし、か・・・。
神様が祝福した婚姻譚により、過去の因縁が取っ払われて、強固緊密な関係になった徳川家との外交担当は、何時切れるか判らん武田家よりはマシともいえるしな。」
信吉の言にポジティブに返す。
「まあ、そっちの方はもうええわい。
それは置いといて・・・小吉!お前の部隊は無茶苦茶をし過ぎるぞ!
ちゃんと手綱を締めて統率せんかいお前!」
「はぁ・・・。」
政治面の追及が終わった途端、今度は軍事面での追及が始まるのであった。
続く
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