第6話雨降って地固まる・・・敵が。

「さあ、さっさと言え小猿。」

「エヘ?いや~私如きがって、ちょっ!?うわっちゃあ!?」

笑って誤魔化そうとする、小吉の横の床にダンッと、信長から脇差しが投げつけられて、ピーンと突き立った。


「儂はそんなに気が長くないし、持って回った言い方も好かん。

直裁ちょくさい(ストレート・簡潔)に言え。」

鋭い目つきで念押しする。


信長の言に、今回の裏評定の出席者、森可成・村井貞勝むらいさだかつ・丹羽長秀・池田恒興の、腹心4人も頷いた。


「はは、承知しました。

え~とですね・「おい待てコラ、さっさと儂の脇差しを返せ貴様。」

突き立った脇差しを抜いた小吉が、説明がてら後ろ手に、脇差しを隠したのを見逃さず、即返却を求める。


「え?私に下賜してくれたのでは?」

「たわけ!!誰がやると言ったのだ!?

そもそも今の状況下で、どう解釈したら貰ったと思えるのだ貴様は!?

図々しいにも程があるぞお前・・・。」

怒りを通り越して、呆れの方が勝った模様。


「勝(三郎)=池田恒興)、疾く儂の脇差しを回収しろ。

こやつ儂の脇差しを、臆面なくしれっと隠匿ネコババするつもりじゃ。」

「ははっ!・・・ほら、返せよ。

・・・お前、良く殿の面前でそんな大胆な事出来るな?豪胆過ぎるだろ・・・。」

主君で義兄の信長を振り回す小吉に、呆れ顔で感心する恒興。


(チッ、どさくさにネコババして、売り払うか自分のモンにする、企みが失敗したか)

ゲスな企みが失敗した事に、内心で舌打ちしつつ、恒興に脇差しを返却する。


「・・・ったく、早よう言え早よう。」

「え~と、では端的に言えば、「雨降って地固まる」です。」

「「「「「ほう・・・。」」」」」

小吉の意味深な言葉に、顎に手を当てて思考する、信長と腹心達。


「・・・・・・で?」

「?ですから「雨降って地固まる」が、皆様方に対する、端的な答えですけども?」

続きを促す信長に、首を傾げて再度同じ言葉を繰り返す小吉。


「「端的に過ぎて解るかぁ!?

キチンと説明しろ!説明を!?」」

丹羽長秀と池田恒興の両名が突っ込む。


「え~では不肖・木下小吉が、個人的な解釈に基づき、説明させて頂きます。

先ず、答えを言う前提として、先代様が道三公と争った経緯は、一体何だったのか、森様はご存知ですか?」

1番詳しそうな可成に尋ねた。


「それは無論。

元々は土岐とき家の家臣だった道三殿が、御先代亡き後に子で、頼武よりたけ公・頼芸よりのり様の御兄弟が争った、主家の家督相続争いに乗じて、国内の国人衆の支持を集めて勢力を拡大。

主・頼芸様を凌ぐ力を得た道三殿は、頼芸様や頼武公も追放して、美濃を乗っ取った。

そして美濃を追われた頼芸様は先代様、殿の父君・信秀のぶひで公を頼り、美濃奪回を試みたのが、道三殿と先代様が争った経緯だ。」

スラスラと答え、


「加えて家督相続争いのもう片方の当事者、頼芸様の兄君・頼武公は、確か越前福井県の朝倉家を頼った筈だ。」

ついで補足も付け加える。


「詳しい内情、有り難うございます森様。

北から越前朝倉家、南から尾張織田家の、2家に攻められた道三公は、窮地に陥ったにも関わらず勝ち残り、結果的には撃退に成功しております。

池田様、何故だと思いますか?」

「えっ?オレ?・・・ん~そりゃ道三公が、戦上手だったからだろ?」

いきなり話を振られた恒興は、腕を組んで咄嗟に答えを出す。


「コラコラ恒興、幾ら道三殿が戦上手でも、将兵が居らねば戦にならん。

国内の国人衆の支持が有った事を、失念しているぞお主。」

貞勝が恒興の答えに、付け加える。


「では村井様、何故国人衆は道三公を支持して、味方したのでしょう?」

「それは当然、土岐家の者が帰ってくれば又、国内が荒れると恐れての事だろう。

その為に土岐家の者を、わざわざ美濃から追い出したのだから。」

小吉の質問に、したり顔で答えた。


「私としてはそれだけではなく、の理由があると思っています。」

「それ以上の理由?・・・はて?」

「一体何なんだおい?」

恒興が小吉に問い質す。


「国人衆が道三公に味方して、支持した理由・・・それは「恐怖」です。」

「「「「恐怖ぅ?」」」」

異口同音に声上げる面々。


「どういう事だ小吉よ?」

「土岐の頼武公にしても、頼芸公にしても、当時国内にいた国人衆は、道三公の乗っ取りに加担した、「謀反人」でしかありません。

そんな謀反人である国人衆からすれば、土岐家の者が帰国するのは、「自分達の一族や領地を脅かす」でしかないのです。」

問い掛ける可成にそう言って、


「土岐家の者が帰国する、即ち国人衆にとっては、何時謀反人として、処罰されるかが判らなくて、常に自分達の首が寒くなる事であり、良くて当主交代、悪くて切腹や所領没収に怯える、恐怖の日々を送る訳です。」

国人衆の心境を語る。


(そら~国人衆からしたら、最早土岐家の者達は、自分達国人を断罪する、処刑人と変わらねーんだから、必死に抵抗するわな)

さもありなんと思う小吉。


それに加えて、土岐家に付いて国を追われた森家の様に、自分達が追った国人衆達の領地を道三達は、それぞれ分配して得ていた事も、土岐家の者の帰国を望まない、もう一つの要因になっていた。


つまり、土岐家の者が帰国する即ち、一緒に追われた国人衆も、同時に帰国する事でもあり、当然領地を返還せねばならず、プラス詫び料として、元々自分の領地だった所も、削られるor没収される公算が非常に高いのである。


「一族の繁栄」を第一に掲げ、それを基に利害得失を自己の天秤てんびんで計って、大名と大名の間を離合集散し、叛服はんぷく常なしな国人衆にとっては、土岐家の者達は害悪でしかなかった。


「・・・成る程、どちらの土岐様が御帰還なされても、追放に加担した美濃国内の国人衆は、確実に冷遇されて罪人扱いされる訳だ。

しかしそうせねば、土岐様達も自分に付いて来た者達に対し、納得させられぬ・・・か。

隠居した父上が土岐様に味方する、国内の国人が居らぬと嘆いていたが、当然の事か。」

道理でと理解を示す可成。


「ええ、両家が擁した土岐家の者達の影響で、恐怖に駆られた国人衆は、道三公を中心に文字通り「一味同心」に結束し、「一所懸命」な必死の抵抗を受け、朝倉家・先代様は結局、大損害をこうむった訳です。」

信秀の敗因を述べる。


「フンッ、それで「雨降って地固まる」か。

親父殿は土岐という、特大の疫病神を担いだ所為せいで、却って美濃国人衆が、蝮殿を支持して結束し、良いようにしてやられた訳だ。」

鼻を鳴らして小吉の言った、故事成語の意味を理解し、父・信秀の失敗を皮肉った。


「まぁ、ついでに、「尾張の虎」と呼ばれた先代様や、「北陸の強者」の朝倉家を破った事で、武名を上げた道三公は美濃の旗頭=大名に、君臨する事になったのですが。」

「大敗ついでに、名まで成さしめたか。

何時まで親父殿のツケ借金を、払い続ける事になるのやら。」

小吉の話を聴いて、改めて亡父の負の遺産の大きさに、嘆息する信長。


実際に信長が国内統一に、かなりの時間を要した理由の半分は、信長自身の問題からでは有るが、残りの半分は信秀の問題であった。


全盛期には、実力を以て織田一族を束ね、尾張一国と三河国西部を支配する、信秀だったが道三に大敗すると、国内の支配力が低下。


一族の反乱が相次ぎ、勢力立て直しの最中、三河方面の拠点を失陥した後に没する。


ボロボロな状況で丸投げ状態の上、生前信長以外の息子達に、所領と城を与えまくったせいで、信長が跡を継いだ時には、信秀の所領は細切れ状態になっており、本来継ぐ予定の半分も、引き継げなかったのであった。


ついでに犬山城の信清が、信長や信秀を敵視する遠因に、信秀の弟で信清の父・信康のぶやすが、道三に大敗した戦で、信秀の不備が原因で戦死しており、その恨みも含まれている。


わりと信長さん、苦労人であった。


それはさておき、


「え~では次に、義龍の方にいきます。

まぁ、殆ど先代様と同じ流れですけど。

大殿様と義龍が争った経緯は、何だったでしょうか?村井様どうぞ!」

「うん?私か?

それは当然、殿の義父・道三殿を道三殿の実子・義龍が、弑逆しいぎゃくした事であろう。」

自信を持って、胸を張って答える。


「ありがとうございます。

では今度は丹羽様にお聴きします。

大殿様の大義名分は、何でしたっけ?」

「え?「義父・道三殿の仇を討つ」だろ?」

「そうですね。」

コクリと長秀の答えに頷くと、


「あの~その大義名分って、美濃の国人衆が聴いたら、「お前たちは義父の仇敵だ、絶対に許さん覚悟しろ!」に、解釈されると思いますけども?

結局、先代様とほぼほぼ同じ状況を、作っちゃってたんですよ、大殿様達は。」

直裁にぶっちゃける。


「「「「「え?」」」」」

「いや、え?じゃなくてですね、フツーに聴いたらそうなるでしょうに。」

呆れ顔で、鳩が豆鉄砲を食らった表情をしている、良い年扱いた大人達を観る。


「待て待て小猿!?

そんな意図はないぞ儂には!?」

「大殿様にそんなつもりが有ろうが無かろうが、どう捉えるかは相手の都合です。

例えば「義龍」と名指しで言えば、特定の個人に向けてると、国人衆も捉えるでしょうが、逆に特定されてなければ、広義的に「自分達も含まれている」と、捉えるのが極々自然な話だと思いますが?」

焦った様に言い募るノッブに、理路整然と反論する小吉。


「うぐ・・・。」

「ではお尋ねしますが、前の義龍の代の時に、大殿様の調略(内応工作)に応じた国人衆って、どれくらい居たのでしょうか?」

「・・・・・・・・・。」

沈黙を以て答えるノッブ。


「いや小吉、残念ながら全く居なかったのだが、何故だか解るのか?」

「そりゃまぁ、大体は。

「道三公の敵討ちをします」と、(国人衆)に堂々とのたまった上、道三公のやり方に不満が有ったから、義龍に味方した連中に大殿様は、「自分は道三公を」と、言ったに等しい事を言っている訳ですから、大殿様に味方する国人衆が居たら、有る意味凄いと思いますけど?」

美濃国人衆観点で述べた。


美濃国外では、古典的で使い古された大義名分であり、特に悪い名分ではなかったが、美濃国内では、味方に付けるつもりの国人衆に、最大限の敵意と恐怖心を植え付ける、最悪の名分になっていたのである。


そんな常識というか正気を疑う、大義名分を掲げる信長に味方する、美濃国内の国人衆なぞ居る筈も無く、むしろ信長に対する恐怖心で、義龍の許にこぞって一致団結し、「交渉の余地無し」と必死の覚悟で戦う美濃勢に、勝てる筈がなかった。


「「「「あっ!?」」」」

小吉の指摘で、漸く悟った信長の腹心連中。


「では是にて、個人的な解釈を終わります。

どうもご静聴、ありがとうございました。」

動揺する腹心達を余所に、淡々と平伏して、辞去しようとする小吉だったが、


「待て、小猿。」

信長が良く通る声で呼び止めた。


そしておもむろに腰に差している脇差しを、鞘ごと軽く小吉の前に放り投げ、


「欲しくば呉れてやる。

その代わり、これからの方策を言え。

それだけ料敵りょうてき(敵の動き・感情を読む)が出来る小賢しさなら、心利いた策が有ろう?」

対価を要求する。


「・・・いえいえとんでもない。

私如き又者が、主家の方策を述べるなど、僭越せんえつ至極にございましょう。」

一瞬、「は?ナニコレ?」といった表情を見せた後、再び平伏してしれっと断った。


「ぐく・・・貴様ぁ、足元を観よって!

小賢しい奴よ!ほんに・・・コレでどうじゃ!?文句あるまいが!?」

小吉の「上乗せ要求」を見て取った信長は、青筋を立てつつも、小姓から刀をパッと取ると、足音をドスドス荒立てて小吉に近づき、ドンッと刀を置く。


「ははぁ!其処まで乞われては、不肖・木下小吉、是非もありません!」

満面の笑みで、内心「毎度~!」と言いつつ、方策を述べる小吉であった。


                続く

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