【前日譚】語裏夢誅-夢で泣く少女-

双守桔梗

夢で泣く少女【目】

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「……ねえさん……にいさん……」

 青い花柄の白い着物に身を包んだ、長い黒髪の少女は膝を抱え、消え入りそうな声でそう繰り返す。今回も少女は下を向いて顔を隠し、ただ泣き続ける。



 とめが初めてその夢を見たのは六歳の時……彼女の兄が臨海学校から帰宅した日の夜だった。


 少女に泣き止んでほしいと思った真菜花は、どうすればいいか一生懸命考えた。


 少しして真菜花は、自分が怖い幽霊を見て泣いている時に、両親や兄がしてくれた事をすればいいのだと思いつく。そして何も言わずに少女を抱きしめ、彼女の背中を優しく撫でた。


 泣いている少女の夢を見る度に、真菜花は必ず彼女をそっと抱きしめる。そうしている内に、いつしか少女は泣き止んで、目元を拭いながら顔を上げるようになった。


 少女はとても美しく、真菜花はつい見惚れてしまう。


 しばらくして少女は夢の冒頭から泣かなくなり、時折り切れ長の目を細めて微笑むようにもなる。また、何度目かの夢で少女は、少しだけ自分自身の事を真菜花に話した。


 名前は『かんろくせな』で、歳は真菜花より一つ年上らしい。真菜花に好きな物を聞かれると、『せな』は「青い花と空」と答えた。好きな人は「ねえさんとにいさん」だとも、『せな』は少しだけ悲しそうな顔で言った。



 月日が流れると、真菜花と共に『せな』も成長し、少しだけ自分の生い立ちも話すようになる。


 とある島に生まれ、幼い頃に亡くなった両親の事はあまり覚えていない。両親の代わりに育ててくれた大好きな姉と兄も亡くなり、悲しくて夢の中で泣いていた。姉と兄を心配させたくなくて、現実では泣けないから……。


 でも、のおかげで、少し心が軽くなって涙はもう出ない。


 そう言った後、『せな』は真菜花にお礼を言った。


 その後も夢の中で、真菜花と『せな』の少し不思議な交流はしばらく続いた。けれどもある日、『せな』は真菜花に別れを告げ……夢の中に現れなくなる。それから月日が流れ、真菜花はいつしか『』の事を忘れてしまう。



 数年後、真菜花は現実世界で『』と再会する。

 十年に一度、恐ろしい奇祭が行われる、とある因習島で……。

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