光を贈る 〜支える者の覚悟〜

第1章：光を追う少女

彼女と初めて会ったのは、地方オーディションの控室だった。

周囲の華やかな子たちに比べて、どこか地味で大人しそうな子。

正直、最初は目に留まらなかった。

名前を呼ばれて立ち上がった彼女は、緊張で声が震えていた。

ダンスはぎこちなく、歌も決して上手ではなかった。

けれど、最後の一礼で見せた笑顔が印象的だった。

その瞬間、なぜか胸がざわついた。

結果は、合格。

「アイドルとしては弱いけど、根性があるかもしれない」

そんな微妙な評価の中で、彼女はデビューを勝ち取った。

最初のステージ、僕は舞台袖で見守っていた。

センターに立つ子たちの背後で、彼女は必死に踊っていた。

動きは他のメンバーに比べて少し硬く、声もかすれがちだった。

それでも、笑顔だけは崩さない。

「必死だな……」

そんな風に思いながらも、その姿に少しだけ期待してしまった。

第2章：支え続ける苦悩

アイドルとしての活動が始まって数ヶ月。

彼女はバックダンサーや端役が多く、目立つことは少なかった。

それでも、誰よりも早く来て、誰よりも遅くまでレッスンを続けていた。

ある日、深夜まで残っている彼女を見つけた。

「もう終わりにしなさい。遅いぞ。」

声をかけたが、彼女は首を振った。

「あと少しだけ……もう少しだけ練習させてください。」

ガラス越しに見える背中は、小さく震えていた。

悔しさを噛み締めながらも、諦めないその姿に胸が痛んだ。

SNSの反応は冷たかった。

「ダンスが下手」「存在感がない」「引退すべき」

そんな言葉を見るたび、彼女がこのコメントを見ていないことを祈った。

スタッフ会議でも、彼女の扱いについて意見が割れた。

「パフォーマンスレベルが低いから外した方がいい」

「もっと華やかなメンバーを推すべきだ」

僕は反論できなかった。

確かに、アイドルとしては実力不足かもしれない。

でも、誰よりも努力していることを、僕は知っている。

それを言葉にできない自分が、悔しかった。

第3章：届かない声

ある日、彼女の体調が悪化した。

無理がたたって足を痛め、ステージには立てなくなった。

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

控室の隅で、小さな声で繰り返していた。

「謝るな。無理をするなって言っただろ。」

優しく声をかけたが、彼女は泣きそうな顔で震えていた。

「私……何をやってもダメなんです。センターになれないし、歌も下手だし……」

かけるべき言葉が見つからなかった。

彼女がどれだけ努力しても、報われない現実。

「諦めたくない。でも……もう無理かもしれない。」

その言葉に、僕は何も言えなかった。

何度も何度も練習を繰り返しても、結果がついてこない。

そんな悔しさを、僕はどうやって救ってやれるのか。

支える者としての無力感が、胸をえぐるように襲ってきた。

第4章：新たな道へ

しばらくして、彼女は卒業を決意した。

「アイドルとしては一流になれなかったかもしれない。でも、私が伝えたかったことを文章なら届けられるかもしれない。」

その言葉を聞いたとき、何かが胸を締め付けた。

必死に頑張ってきた彼女の姿が頭をよぎる。

諦めない心を支えたかったはずなのに、結果的に何もできなかった。

その悔しさが込み上げてきた。

数ヶ月後、本屋で偶然見かけた本の表紙に彼女の名前を見つけた。

驚いて手に取り、ページをめくる。

そこには、ステージの端で懸命に踊っていた彼女の思いが詰まっていた。

「どれだけ頑張っても届かないことがある。それでも諦めたくなかった。」

その言葉が、胸を強く締め付けた。

——頑張ったよな。よくやったよ。

誰も気づかないその努力を、僕は知っている。

誰がなんと言おうと、僕にとっては君が一番輝いていた。

本を閉じて、静かに目を伏せた。

涙がこぼれそうになったけれど、それは彼女が前に進んだ証だ。

「お前は、ちゃんと輝いてたよ。」

そう呟きながら、僕はその本を大切に抱きしめた。