初恋は優雅に消える

蟹山カラス

日がさした

 初恋は優雅に消え去ってしまう。

 そんなことを君が言ってきたのはいつだっただろうか。


 僕は君に恋をしていた。長い長い恋を。

 君はといえば、恋になんて興味の無いタイプらしく、ずっと友人として接してくる君に僕は閉口したものだ。


 この関係を壊す勇気が無くて僕は言い出さずにずっと来た。

 そんなある日のことだ。

 君が、初恋をした、と笑うのを、僕は茫然と見た。

 いつもと同じ笑顔。

 でも、それはもう前までの君ではなくて、恋を知ってしまった者の顔をしていた。


 それからというもの、君は奮闘した。

 恋を叶えるために、奮闘した。

 僕はといえば。恋敵に君を奪われるための努力なんてする気になれないし、君と距離を置いた、その距離すら気付かないのが君という人間だった。


 そして、君の初恋が終わる日。

 僕と君は屋上で紙パックジュースを飲んでいた。

 時は初春、背の低いビルが続くごみごみとした街に、日が沈みかけていた。


「ね、知ってる?」

「何を?」

「初恋は優雅に消え去ってしまう」

「……失恋したのかい」

「ううん。違うよ」

 そう言って、君は僕を見た。

「なんかもう、いいかなって」

 その言葉に僕は嫌な予感がしたが、いつも太陽のような君の笑顔が陰ってはいなかったため、おそらく何もないだろう、と判断し、話の続きを促す。

「どうしたの」

「嫌いになっちゃった……あの人のこと……」

 次の瞬間、君の笑顔はくしゃくしゃに歪み、君はしゃがみこむ。

「どうしたの、どうしたの、大丈夫かい?」

「大丈夫じゃないよ……」

 聞けば、初恋の相手が他の異性といるところを目撃してしまったらしい。

「私、できないよ……あんなこと」

 ぼろぼろと泣く君に僕は何も言うことができなくて。

 できないよ、できないよ、と泣く、

「大丈夫だよ」

「できないよ……」

「大丈夫だよ……君にそんなことを強いてくる奴がいたら、僕がやっつけてやる」

「……ほんとに?」

「約束する」

 それを聞くと、君はほっとしたように笑った。

 ありがとう、と言った君に僕は僕の初恋を一生秘める覚悟をした。

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