あの夢

朝昼 晩

9回目

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。



「ーーーー!」

 不快なものを感じ、俺は思わず飛び起きた。

 冷や汗をかきながら、ここが自分の寝室だということを確認し、ひとまず安堵する。

 時計は、夜明け前の時間を指していた。

「ハァ、クソッ、またあの夢か……!」

 頭を抱えて、不快感の原因を思い出す。


 始まりは、1週間ほど前。

 ここのところ毎日のように見ている、奇妙な夢。

 だと言うのに、内容はほとんど印象に残ってない。

 何の夢を見たのか、どんな夢を見たのか。

 どこに居て、何をしたのか。

 何も覚えておらず、唯一の手がかりは、

『あの夢を見たのは、これで9回目だった。』

 という実感のみ。

 言葉として覚えているわけではない。それこそ、「そういう夢を見た気がする。」という不思議な感覚。

 それを近ごろ毎朝、目が覚める度に自覚するのだった。


「どうなってんだ……」

 おかげで、寝覚めは最悪。

 せっかくの休みなのに、気分が憂鬱になってくる。

「一旦、水飲むか」

 考えるのを中断し、カラカラの喉を潤すために、ベッドからキッチンへ向かう。

 何も変わらない、昨日と同じ部屋。

 真っ直ぐ進み、食器棚からグラスを取り出す。

 蛇口を捻り、水を注いだところで、

 違和感。

「……あれ、なんか」

 

 唐突なデジャブに、俺はまた、先ほどの不快感を思い出した。

「い、いやいや、そんなまさか」

 頭を振り、今の感覚を振り払う。

 そして水を飲み、グラスを置こうとして、

 カシャンッ。

「え」

 

 手を滑り、グラスが落ちていったこの光景。

「まさか、あの夢……?」

 鮮明になっていく既視感。

 そうだ、俺はこの光景を夢で見た。

 確か、この後俺は……。

「!」

 ハッと顔を上げ、急いで壁にあるカレンダーに駆け寄る。

 ペンを手に取り、今日の日付から遡るように丸を入れていく。

「見た、見た、見た」

 いつからあの夢を見始めたのか、それを思い出すために。

「見た、見た、見た、……見た」

 丸の数が増えていく。そして、

「……見た、……見た、…………たぶん、見てない」

 始まる前日に、バツを付けた。

 曖昧な記憶。それでも、俺は縋るように数を数える。

 あの夢を見た、回数を。

「………………」



 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

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あの夢 朝昼 晩 @asahiru24

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