かつて親友だった男(モブキャラ

木公 才石

1

 旧い友人から突然、連絡が届いた。

『オガちゃん、おひさ〜!』

『小学校の時同じクラスの美上みのうえ優輝ゆうき

 だけど、覚えてる??』

『急なんだけど今週の土日、会え

 ない?』

 ENILというチャットアプリを通して、俺に届いたメッセージ。

 『オガちゃん』とは俺・小川おがわ智廣ともひろの事である。小学生以来このあだ名で呼ばれる事は無くなったので、『オガちゃん』という久しい響きに懐かしさを覚えた。

 優輝とは小学校を卒業して以降、一度も会っていない。俺の親が教育熱心だったので、中学受験をして進学校へ行ったからだ。

 家は近所であったものの、特に用事も無く、わざわざ会いに行く理由が無かったのである。

 とはいえ何度か俺が遊びに誘った事もあった。なかなか予定を合わせる事が叶わず、そのまま疎遠になっていったのである。

 高校生になる頃には、もう連絡を取り合うのも無くなった。俺たちは現在24歳になる年なので、かれこれ12年くらい顔を合わせていない。

 それにしても、本当に急な連絡だな。10年以上も連絡を取り合っていなかった人に対して、開口一番に「土日会えない?」などと普通は言えたものではない。しかも今日は金曜日だ。今週の土日と言っても、明日明後日の事である。

 怪しすぎるだろ。世間で言う『悪徳マルチ商法』の手口のように思えてきた。高い壺を買わされたり、聞いた事もない仮想通貨を勧められたりするかもしれない。

 片っ端から知り合いに連絡を入れ、予定を急かすという手口。俺にもマルチをやっていた経験があるからわかる。こいつは8割方、マルチの人間だ。

 明日明後日の事を『今週の土日』などと回りくどい書き方をしているのは、おそらく片っ端から送信する為の定型文をコピペしているからであろう。

 流石に優輝のやり方は強引すぎる。これでは胡散臭さが前面に押し出されて、鴨ですら罠に近寄らない程であろう。

「……」

 俺は返信を躊躇とまどった。

 本来なら行くべきではないのだろう。だが、やはり俺には彼と会いたいと思う気持ちが、胡散臭い商売を勧められる嫌悪感を上回るほど強くあるようだ。

 小学生時代に一番仲が良かった友人だ。久しぶりに顔を拝みたいと思う事は悪いことではない。俺は彼の誘いを受ける事に決めた。

『優輝久しぶりやん

 日曜日は仕事が早く終わるから空

 けれる〜』

 メッセージを送り、スマホの画面を閉じる。

 しばらく会っていなかった友人と再会できるというのは、胸が躍るものだ。大人になった彼の話を、色々と聞きたいと思った。

 もし壺か何かを押し付けられても、断れば良い。

 ただ、旧友と話したい。その動機は、日々の過酷な労働の中にある、貴重な休息時間を割くのには充分だった。

 今どんな顔つきになっているのだろうか。どんな人生を歩んできたのか。

 どうして成人式で再会しようという約束を破ったのか。

 彼には、聞きたい事が山ほどあった。

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