何とも表しがたい「女」Y.U.
知的障害者を見ていて、腹が立つこともあれば尊敬することもある。さらに、腹が立ったときでもその人の深い美を見出すことがある。
Y.U.は、女性の知的障害者である。昔はコンビニや倉庫でバイトをしていたらしい。彼女がいかに非障害者と労働していたのか不思議だが、少なくとも良い関係ではなかったと思われる。今日も彼女はしゃべりすぎ、文句を発し、結果的に上の人に呼び出された。鼻につく内容の言葉をすぐに出し、半年前と比べてほとんど改善されていない。私もかつて「何やってんですかー、せっかく私がやったのに」と言われ、腹が立ったことがある。明日や明後日にまた腹が立つ可能性はそれなりに高いと思う。
ただ、後ろ姿と横を向いた姿、しゃがんだ際の姿など、顔面が私の方を向いていないときの彼女の形状がとても良い。Y.U.が仙台駅周辺を歩くとき、必ず周りにキラキラした恵まれてそうな可愛い女の子がいる。しかし私はそれらに対して虚飾と一様性を感じる。可愛いのは化粧、キラキラしているのは服装、話し声が女の子女の子しているのは大したことをしゃべっていないからだ、と勝手に思っている。対してY.U.は、額の曲率が大きく、つり鐘のような髪型、化粧をしているのかいないのか分からない顔面、垂れ目、眼鏡、そして信じがたいほど甲高い声。これを荒い表現で書けば「ぼろっちい女」だ。しかしそれゆえに、一様な見た目の女の群集の中でひときわ目立つ。さらに、一挙手一投足が平安貴族の女を連想させる滑らかな動きである。私は、Y.U.という女が現代的な女らしさをあまり持たないゆえに、彼女をちゃんと人間として認識できる。ちまたを歩く可愛すぎる女は性欲の吐け口、ブスすぎる女は目を背けるだけであり、Y.U.はそのいずれにも属さない未知の女である(私から見れば)。そして、女から無性の人間に落ちたY.U.が甲高い声を出した瞬間、彼女はどこにもいない魅力的な女にまで昇り、性欲とはまったく異なる概念が生じる(私の中で)。すなわちY.U.は私に性欲を掻き立てることなく女を感じさせる。
いま、広大な砂浜に自分とY.U.が距離rを隔てて直立している状況を想定してみた。Y.U.が何かに気づいて北東方向を指差し、「ああ!」と甲高い声を発した。その声が私の耳に入り、性欲ではない快感を生じさせ、私は北東方向を向く。そこには小さなフェリーがゆっくり移動している。青い海の上を。
それでも私は、過剰なまでにY.U.をよく観察しているにもかかわらず腹が立つことが多い。もしかしたらY.U.も私に対して腹を立てているかもしれない。世の中にはこんな人もいるのか、と思いながら、結局今日も彼女の後ろ姿を眺めて味わった。
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