第2話 時系列で書いた私の悩み事

 今この瞬間、まさに私は遅刻した野郎であり、職場に電話をしてもいない社会不適合者である。


 昨日、私のもとに100万円が入金された。親族が10年かけて私のために私名義の銀行口座に貯めてきたもので、満期を迎えたので私のところに移された。実際には100万円以上の額だが、具体的数字は書かない。また、その額を一気に私のもとに移すと贈与税が発生するので、それを回避するために100万円という分割移行の方法を取ったのだという(この時点で、税金を払いたくない=社会システムの維持に対して一個人がお金を出したくない、という深層的な意思が感じられ、税金徴収体制の限界がはるか昔に来ていたのではと推測された)。


 私は貧しい。非課税の対象者である。給与は普通の人に比べてはるかに低い。それを補うために年金を受給している。なんとかぎりぎり生活できているが、貧しいことに変わりはない。103万の壁が178万円に上がるかどうか知らないが、その話題の対象者たる私のもとに突如として100万円が出現した。年収が1日で手に入ったという感覚である。そして今日のこの時間、本来通勤していなければならない時間にこれを書いている。9時08分に起きたという時点で、始業時刻9時に遅れたのはただの寝坊である。しかし今は11時であり、この間の私の頭がどう動いていたのかは問題視しなければならない。


 私はお金に操られる骸骨男かもしれない。100万も手元にあるんだから今日1日ぐらいどうでもいいという、動物的な本能による感覚を抱いた。しかしそれが大間違いであることは、人間的な思考によって潰された。

 6年前、私は孤立に孤立を深めた存在であった。どのように孤立していたのだろうか。 

 3人以上の空間において、私を除く2人以上の人々が何らかの結合状態になり、集団化した。残る私は孤立者である。ここで、これは自分から見た風景である。

 2人の場合、孤立しないときもあった。しかし孤立していた時間の方が多かった。その理由は、もう1人にさまざまな命令をされていたからである。「〜しろ」という発言に対し「わかった」と返答するしかなかった。もし「できない」と言うと怒られるか、ため息をつかれるだけか、分かりきった説教を黙って聞くか、そういった碌でもない選択肢しか残っていなかった。命令される奴隷と、命令をする奴隷主という2元系であり、それらが固溶することはなく、分離していた。分かりやすく言えば、「命令してくるだけの奴に従うわけねーだろ」。よって私が孤立していた一方、相手方も孤立していたといえる。相手方とは親、先生、日雇いバイトのお偉いさんなどである。

 1人の場合、言うまでもなく孤立状態だ。これはしかし束縛からの解放ともとらえることができた。この孤立は必ずしもネガティブではなく、自分の中に「内なる他者」を生み出すことを可能にした。そのとき小説執筆をして「内なる他者」を外へ出すという行いをした。しかしこれは幻想、あるいは非現実世界である。1人の場合と最初に書いた以上、それが2や3に変わるわけもない。

 よってどのような自然数に対しても私は孤立状態が最も安定な状態であり、それは社会で他者と関わって生きていくというところから遠いとしか言えない。

 何が言いたかったかというと、孤立を求めることが社会参入を拒否していた最大の理由だと思っていたということである。

 しかし今回、手元に100万円出現という事態を受けて、社会参入すなわち働くことに対する意欲が減退した。ここで、現在は6年前のような孤立状態にはない。第1話で紹介した知的障害者の方に大きな関心を寄せていて、それ以外の30名ほどの各人の特色をつぶさに観察して楽しむことを覚えた。これは孤立状態よりも仕事場にいる方が安定しているといえる。にもかかわらず、大金が私の感覚と思考をかき乱している。そして先に書いたように、私は貧しい。いずれ消えるカネに翻弄されているのだということを、他者目線から見れば分かる。しかし自分の目玉を常に他者に移すことなどできるはずもなく、自分目線から見る景色を世界それ自体と認識し、かき乱される。そして、視点が自他を往復すること自体が負荷になっているだろう。


 ※ここで私は大便をするためトイレへ行く※


 ※仕事場に顔を出した。そして相談して、今は帰りのバスの中である※


 仕事場に入ったときに、その知的障害者の方がいた。3時間40分も遅刻した私に「おはようございます」といつものように挨拶をしてくれた。と同時に「なんで遅れたんですか?」と問われた(これはいつもの漫才なので、私は不愉快ではない)。

 相談した方が言うには、資格取得のために使うと良いという。私には現在希望する仕事があるので、その仕事に応じた資格を取るための資金として使うのはどうか、ということだった。


 ※相撲中継を見ている今※

 相撲の前に国会中継をやっていた。車椅子の議員が非常に重大な問題提起をしていたのに、nhkが途中で放送を終了したことに失望した。

 それはさておき、目下100万円をどうするかが私にとって最重要課題であることは変わっていない。

 昨日、例の知的障害者(S.O.)が丁寧語の学習に取り組み始めたことを前話で書いた。これは普通の人にとっては何でもないことだが、彼にとって大きな挑戦だ。そして彼が仮に1ヶ月後に2倍成長したとする。何をもって成長というかは不明だが、それは1ヶ月後に判明するだろう。他方、私はその間にいったい何倍成長できるだろうか。昨日と違う点は、手元にカネが入ったことで精神的余裕が生まれたことだ。よって昨日より成長しやすい環境になった。何も成長していない場合、私の手元のカネはおそらく娯楽以下の財・サービスの消費に使用されているだろう。にもかかわらずS.O.さんに丁寧語を教えているだろうから、これは彼を見下して悦に浸る醜悪な人種に落ちることに相当する。のみならず手元のカネは2ヶ月後、3ヶ月後に半分、1/4にまで減っているだろう。2倍の成長も見込めない。高さ1mの建物が2mになるのと、100mが200mになるのはどう考えても同じではない。そこで、1.3倍の成長を必ず成し遂げることを想定してみた。そのためには、とりあえずS.O.さんと同じ2倍の成長を目指してみようと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る