13 脱出
「一体、誰がケガをしたんだ?」
参拝客がいなくなった夕方――私たちは、蔵に戻った。
たぬきは、まだ生きている。
って言うか、顔は半分以上すでに死んでいた。
「鈴木さんだよ。ほら、昨日お会いした氏子のJKさん。階段から落ちたんだ」
「す、鈴木さんが? で、どうなった?」
「警察の話によると、彼女は病院で意識を取り戻したらしい。とりあえず検査は必要だけど、おそらく命に別状はないだろうって」
「鈴木さんが……いや、まぁ、しかし、死ぬのはオレだもんなぁ……」
「でも、あの人、何なの? 色々と、今日の私たちの事情を知ってるみたいだった。おまけに階段から落ちる前、まわりの黒い霧を思いっきり吸い込んで――」
「黒い霧を吸い込んでいた……なるほど、そういうことですか……」
「そういうことって? どういうことなの、美古都ちゃん?」
「鈴木さんも霊力をお持ちの方なのです。この神社に邪悪な霊気がただよっていることに気づかれ、できるだけ自分の体内に吸収、浄化されたのでしょう」
「自分の体内に……浄化……」
「さて、鈴木さんが邪悪な霊気を減らしてくださいました。これによって、私たちも動きやすくなります」
「動きやすくなったところで……オレは死ぬ……もう少しで、死ぬ……」
完全にあきらめた顔で、たぬきが言う。
だけど美古都ちゃんは、ありえないレベルの明るい笑顔で彼に返した。
「大丈夫でございますわ。私が予言を外してごらんにいれます♪」
美古都ちゃんの言葉に、私とたぬきは「は?」と、あっ気にとられる。
「予言を、外す? 美古都ちゃんが?」
「み、美古都! キ、キミ、そんなこと、できるのか?」
美古都ちゃんは、そんな私たちに、やっぱり明るい顔でうなづいた。
「とりあえず、その方法は最初から考えておりました。鈴木さんが霊気を吸われ、ケガをされた今――人形の予言は真実と化しました。たぬきは、まもなく死にます」
「ちょ、ちょ、ちょ! たぬきが死んじゃマズいでしょ! それより予言を外すって、一体どうやって?」
「簡単な話でございますよ。今日、私とたぬきで、みどりさんのお宅にお泊まりに行きます」
「は?」
「は?」
私とたぬきは、あまりにもアレな美古都ちゃんの提案に、思わず声を裏返す。
だけど彼女は、明るい表情のまま続けた。
「人形の予言を思い出してください。あの子はこう言いました。たぬきが今日、この狐野神社で死ぬ。その前に、この狐野神社からケガ人が出る」
「その通りだよ! そして鈴木さんがケガをした! だったら次は、たぬきが――」
「たしかに次は、たぬきが死にます。この、狐野神社で」
「あっ! な、なるほど! そっか!」
私は、美古都ちゃんの予言を外す方法に気がつく。
そ、そうだ!
その手があった!
「み、美古都……オレは、その、まったく意味がわからないんだが?」
まだわかってないたぬきに、私が説明をする。
「あのね、たぬき。予言通りにいけば、あなたは今日死ぬんだよ。この狐野神社で」
「みどり……キミは……なんだかめちゃくちゃうれしそうだな……」
「たぬきは死ぬ! この狐野神社で! だったら――あなたが狐野神社にいなければ、死ぬことはないんじゃない?」
私のその言葉に、たぬきがハッと目を見開いた。
「そ、そっか! なるほど! オレはここで死ぬ予言をされた! ってことは、ここにいなければ死なないってことか!」
「そう! 良かったね、たぬき! そうと決まれば、早速行動だ! みんなで狐野神社から脱出しよう!」
「準備はすでにできております」
美古都ちゃんが、蔵の隅っこからリュックを取り出す。
それを、たぬきに差し出した。
「たぬきのお泊まりグッズです。とりあえずこれを持って、狐野神社の敷地外に出てください」
「わ、わかった……ありがとう、美古都……」
「私とみどりさんが、たぬきが敷地外に出るまで護衛します。鳥居を抜け、参拝客用の駐車場まで数百メートル。この間が勝負だと思ってください」
「りょ、了解だ……」
立ち上がり、私たちは慎重に蔵の外に出る。
周囲には、鈴木さんのおかげで少なくなったとはいえ、かなりの怪しい霊気がただよっていた。
まだ夕方の5時くらいなのに、夜に近い暗さ。
その中で、私たちは、何かの気配を感じる。
「みどりさん、感じますか?」
「う、うん。めちゃくちゃ感じてる。すごい霊気だ」
「これはかなり危険ですね。しかしたぬきを死なせるわけにはまいりません。十分に注意して進みましょう」
美古都ちゃんが先頭を歩き、その次にたぬき、一番後ろを私が歩いた。
こうしてたぬきを挟むようにして歩くと、何があっても対応できる。
その時――
ビカッ!
ビカビカビカビカビカッ!
まぶしいほどの白い閃光が私たちの頭上に広がった。
雷? と思った直後――まるで空が割れるような雷鳴が、大きくとどろく。
ドーン!
バリバリバリバリバリーーーーーッ!
稲妻が、私たちのすぐ近くに落ちた。
地震のような揺れが起こり、私たちは地面にへたり込む。
そして、ただならぬ雰囲気に振り返ると――
さっきまで私たちがいた蔵の中に、何か黒い煙のようなものがただよっていた。
まるでいつまでも晴れない、濃い霧のような。
か、火事?
と思ったが、そうではない。
黒い煙が、ユラユラと蔵の中からはみ出してくる。
しかし、どうやら柵の外には出れないらしい。
あの柵は、あやかしや悪霊を封じ込める結界……。
だがやがて、その黒い霧の一部が、なんとか結界のすき間から抜け出してくる。
小さな霧が集まると、それはやがて人のカタチにまとまりはじめた。
な、何?
あ、悪霊?
あっという間に、全身真っ黒な
背丈は大人の男の人くらいで、顔もあった。
そいつが、私たちの方を見て、不気味にほほ笑む。
「宮司の血族。そしてきつね巫女が二人か。大したことはなさそうだな」
真っ黒な霧でできた男――つまり
私たちは、ボーゼンとそいつの姿を見つめた。
「あとはこの結界だけだ。宮司の血族を殺せば、この結界は壊れる。オレたち全員が、ここから抜け出すことができる」
霧男が、私たちにゆっくりと近づいてくる。
私たち、少なくともたぬきは、完全に超ビビッていた。
なぜなら彼は――その段階で、すでに地面で気絶していたのだ。
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