12 色々とわかっちゃう人
とりあえず私たちは、たぬきを狐野神社から出さないようにした。
たぬき本人は完全にあきらめモードで、蔵の中でなぜか正座をしている。
なんか、めちゃくちゃかわいそう。
私と美古都ちゃんは、巫女の衣装に着替え、神社の中をくまなくチェックした。
何かおかしいところはないか?
チェックが終わると、私は神社内の掃き掃除、美古都ちゃんは社務所でお守りの販売をする。
狐野神社は、ケッコー人気がある神社だ。
おまけに今は、連休中。
参拝客も多い。
だが――ヘンなお客さんはまったく見当たらなかった。
マナーは守られ、参拝客は丁寧に鈴を鳴らしたり、記念撮影をしたりしている。
ひと通りの掃除を終えると、私は社務所にいる美古都ちゃんのところに行った。
「今のところ、異常なしだよ」
「はい。こちらもです」
「でも――本当に、ケガ人が出るのかな? 美古都ちゃんは、どう思う?」
「たぬきの前では、言えなかったのですが――」
彼女が、まっすぐに私を見る。
「間違いなく、ケガ人は出ます」
「やっぱり……」
「みどりさんもすでにお気づきでしょう? 今日の狐野神社は、とてつもなく邪悪な霊気に包まれています」
私は、神社全体をながめてみる。
そうなのだ。
今日の狐野神社には、たしかにハンパない霊気が充満していた。
邪悪、としか言えないような……。
「しかしながら、何があっても、たぬきを守らなければなりません。今日一日、なんとかがんばりましょう」
「そうだね。たぬきを助けられるのは、私たちきつね巫女だけだ」
うなづき合い、私は箒を持って参道まで歩く。
たぬきがいる、蔵に目を向けた。
蔵の真横の御神木が、わずかな風にサラサラと揺れている。
大丈夫。
狐野神社には、あの御神木がいる。
御神木が、きっとたぬきを守ってくれる。
「あら。あなた、昨日の子?」
後ろから、誰かが私に声をかけてきた。
振り向く。
セーラー服姿の女子高生。
昨日出会った、狐野神社の氏子・鈴木さんだった。
「あ、こんにちは。えっと、鈴木さん」
「あれ? あなた、私の名前を知ってるの?」
「はい。昨日、たぬきから聞きました。ずっとこの神社を助けてくださってる方の娘さんだって」
「まぁ、たぬきちゃんったら、おしゃべり。ところであなた、今日は巫女のバイト?」
「はい。一応、まぁ、そんな感じです」
「何か良くないことがあったんだね……」
いきなり、鈴木さんが言った。
え?
この人、なんでわかるの?
その場で目を閉じ、彼女は何かを考えている。
数秒間、沈黙した。
次に目を開けると、彼女は真剣な瞳で私を見つめる。
「なるほど、そういうことか……」
「え、えっと……」
「あぁ、気にしないで。私、色々とわかっちゃう人なの」
「わかっちゃう人……」
「でも、これは困っちゃったね……」
鈴木さんが、周囲を見回す。
まったく意味がわからないまま、私は彼女を見つめていることしかできない。
「えっと、あなた、お名前は?」
「み、みどりです。赤居みどり」
「みどりちゃん。じゃあ、ついてきてくれる?」
鈴木さんが、参道を歩きはじめた。
仕方なく、私は彼女のあとについていく。
彼女は、駐車場に続く階段の手前で立ち止まった。
「あなた、私を助けてくれないかな?」
「鈴木さんを、助けるのですか?」
「そう。何て言うか、今のままだと――ここでケガ人が出ちゃう感じでしょう?」
「え……」
「あなたなら、今のこの神社にただよう邪悪な霊気くらいわかるんじゃない?」
「は、はい……」
「邪悪な霊気は、ある程度私が持っていく。だから――あとは頼んだわよ、きつね巫女ちゃん♪」
次の瞬間――決してあってはならないことが、私の目の前で起こった。
階段に背を向けた鈴木さんが、両手を広げ、大きく口を広げる。
すると、彼女の口の中に、何か黒い霧のようなものが吸い込まれはじめた。
な、何、これ?
なんで、黒い霧が?
しかも、鈴木さんの口の中に!
私は、周囲を見回す。
いつの間にか、私たちのまわりに、黒い霧がただよっていた。
こ、これは……さっきから私と美古都ちゃんが感じていた……邪悪な霊気?
かなりの黒い霧を吸い込んだあと、鈴木さんの体がフワリと宙に浮き上がる。
「あ、危ない!」
後方に倒れていく彼女に、私は思いっきり手を伸ばす。
だけど私の手は――まったく届かなかった。
ゴロゴロと、鈴木さんがそのまま階段から転げ落ちていく。
「きゃああああああああああ!」
神社内に、参拝に来た女性たちの悲鳴がひびきわたった。
階段の中ほどでなんとか止まった鈴木さんに、私は駆け寄っていく。
グッタリと、彼女は目を閉じていた。
「す、鈴木さん? 鈴木さん! 鈴木さん!」
どうしたらいいのかわからず、私はパニクってしまう。
心配した人たちが、私たちを取り囲んだ。
人だかりの奥から、騒ぎを聞きつけた美古都ちゃんが姿を現す。
「み、美古都ちゃん! どうしよう? す、鈴木さんが!」
「落ち着いてください。参拝客の方が、ケータイで救急車を呼んでくださいました。まもなく到着するはずです」
「で、でも、鈴木さんの意識が……」
「大丈夫ですよ、みどりさん。安心してください」
「安心って、そんなのできるわけないじゃん!」
「人形の予言を思い出してください。今日、狐野神社で出るのは――ケガ人です。そしてそれは、大したケガではありません」
「あ……」
たしかに――彼女の言うとおりだ。
たぬきが死ぬより先に、ケガ人が出る。
そしてそれは大したケガではない。
美古都ちゃんが、静かに続ける。
「予言は当たりました。ということは……たぬきは死にます。そしてそれを助けられるのは、私たち、きつね巫女だけです」
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