かいぶつのあい

九戸政景@

本文

 あるところに形がない怪物がいました。怪物は他の生き物のような形がないので、毎日別の生き物の形になってのんびり暮らしていました。時には鳥になって何も考えずに飛び回り、時には人間になって近くにある町の人たちに混じっていました。


 けれど、怪物は他の生き物が好きだから姿を変えているわけではありませんでした。怪物に好きなものはなく、何となくそうしようと思ったから姿を変えていただけなのでした。


 ある日の事、怪物が今日は何をしようかと思っていた時、怪物の住みかに一人の人間が顔を出しました。それは近くの町から逃げてきた女の子で、泣きながら話す女の子の話を興味なさげに聞いた後、それならここにいればいいと言いました。


 女の子はそれを喜びました。女の子がどうして嬉しそうなのかわからない怪物でしたが、それでも嬉しそうな女の子を見ている内になんだか自分も嬉しくなるのでした。


 そうして二人は一緒に暮らし始めました。怪物が手伝いながら女の子は家を建て、ベッドや暖炉といった家具も揃えていきました。暮らしが豊かになるに連れて女の子は幸せそうな顔をするようになり、怪物は次第に女の子の幸せそうな顔を見たいと思うようになりました。


 そんなある日、怪物は自分の中にあるものが生まれたのに気づきました。それは怪物の中に無かった愛でした。女の子への愛に気づいた怪物はその愛に突き動かされる形で女の子の幸せのために動き始めました。



「すべては、あの子のために」



 人間の姿になって働いたり女の子が好きそうだと思うものを買って帰ったりそんな毎日を送りながら怪物は女の子の笑顔を見るのが日課になっていきました。


 けれど、ある時怪物は気づきました。女の子が時々困ったような顔をする事に。どうしたんだろう、と怪物は思いましたが怪物にはその答えがわかりません。これまで誰も好きにならず自分というものを持ってこなかった怪物には女の子の困った顔の意味がわからないのです。



「そうだ、もっと頑張ろう。もっと頑張って、もっと色々なものを集めて、もっとあの子のために色々あげればいいんだ」



 怪物はそれが正しいと考えてもっと色々なものを集めるようになりました。その変化に少しずつ怪物に馴染んできていた町の人たちも不思議そうにし、中にはこれじゃダメだよと言う人もいましたが、怪物は聞く耳を持ちません。女の子の笑顔を見たくて、女の子に安心してほしくて怪物はひたすらに頑張ります。



「もっと頑張らなきゃ。もっと強くならなきゃ。もっと、もっともっと」



 怪物はひたすらに色々なものを求めて頑張ります。そんなある日、女の子は言いました。



「きみはもう十分頑張ってるよ」



 それを聞いた怪物は驚きます。まだ足りないと思っているのに女の子は十分だと言うのです。女の子の言葉に困り、次第に悲しくなってきた怪物を女の子は抱き締めました。



「もう頑張らなくていいよ。きみから愛されてるのは十分伝わっているから」



 怪物はそれを聞いて涙を流しました。怪物の愛は女の子に伝わっていて、怪物は中に生まれていた自分を愛してもらっていたのです。


 その後、怪物は一人の人間の男の子の姿になりました。それはどこかが秀でているものではないですが、それでも女の子は男の子になった怪物を見ながら笑顔を浮かべました。


 そうして怪物と女の子はお互いに愛し合って結婚し、子供にも恵まれながら町の外れの小さな家でいつまでも幸せに暮らしました。

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かいぶつのあい 九戸政景@ @2012712

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