第6話:拠点防衛と生存戦略

 洞窟の奥で火を囲みながら、俺はゆっくりと息を吐いた。


 拠点を確保したとはいえ、まだ安心はできない。芋虫型の魔物が巣にしていた以上、また現れる可能性があるし、外の森にはもっと危険な魔物が徘徊している。昼間の探索で遠くに狼の遠吠えが聞こえたし、もしあれがここを嗅ぎつけたら、俺の安息は一瞬で崩れるだろう。


「やっぱり、防御が必要だな……」


「その通りだ」


 隣でファシムが俺と同じように火を見つめながら言った。俺の分身でありながら、こうして会話できるのは、まだ不思議な感覚だ。


「拠点を守るために、できることは?」


「入口の強化、罠の設置、監視体制の確立……」


「それしかないか」


 俺は立ち上がり、洞窟の入り口へと歩く。入り口は狭く、一人が通れるほどの幅しかない。だからこそ、ここをしっかりと塞げば、防御力は格段に上がるはずだ。


「まずは、障害物を作ろう。岩や枝を積んで、簡単に侵入できないようにする」


「了解した」


 ファシムと共に洞窟の外へ出て、周囲の石や太い枝を集める。洞窟の入り口に積み上げ、できるだけ通路を狭めるように配置した。これで魔物が突進してくるのを多少は防げるはずだ。


「次は、罠だな」


 俺は木の枝を何本か削り、地面に突き立てた。これで、魔物が不用意に近づけば傷を負うようになる。さらに、入り口近くにいくつかの石を転がし、踏んだら音が鳴るようにした。


 しかし、これだけでは不安が残る。もっと確実な防御策が必要だ。


「扉を作るか……」


 とはいえ、木を組んで作るのは時間がかかる。そこで、俺は入り口に大きめの枝や葉を敷き詰め、一見すると洞窟の壁に見えるようにカモフラージュすることにした。視認性を下げることで、偶然ここに迷い込む魔物の確率を減らすのが狙いだ。


「これで、少しは侵入しにくくなるか……」


 だが、まだ不安は消えない。俺が寝ている間に魔物が来たらどうする? 罠が機能しなかったら?


「監視役が必要だな……」


 俺は考え、すぐに答えを出した。


「ファシムを使えばいい」


 俺はファシムをもう1体生成し、洞窟の入り口に配置した。ファシムは俺と同じ能力と体を持つが、成長はしない。だが、見張り役としては十分に機能する。


「お前はここで入り口を監視しろ。何か異常があればすぐに知らせろ」


「了解」


 さらにもう1体のファシムを洞窟の内部に配置し、内部の監視を命じた。


「これで、夜の間も警戒できるな」


 拠点の防御が整ったことで、少しだけ安心した。


 しかし——


「……なんで、またいるんだ?」


 洞窟の奥に目を向けると、昼間倒したはずの芋虫型の魔物が、また這いずっていた。


「どこから出てきた……?」


 確かに昨日、この洞窟の中にいた芋虫型魔物を倒したはずだ。なのに、また現れている。


「……とりあえず、倒すしかないか」


 ファシムに命じるまでもなく、俺は近づき、岩を掴むと魔物の頭を叩き潰した。


 ぶちゅっ……。


 粘ついた体液が地面に広がり、魔物は痙攣した後、動かなくなった。


 その瞬間——


 まただ。


 体の奥底から、何かが流れ込んでくる。


「……くっ!」


 微細な熱が体の中心に宿り、じわりと広がる感覚。前回と同じ現象だ。


「やっぱり……俺にだけ起こるのか?」


 ファシムたちは何も反応しない。ただ、倒した魔物の死体を見つめている。


 試しにもう1体のファシムを呼び、芋虫型魔物を討伐させる。ファシムが岩で叩き潰した瞬間、魔物は力なく地面に倒れ、そのまま動かなくなった。


 そして——


「……まただ」


 俺の中に流れ込んでくる感覚。だが、それが何をもたらしているのかは分からない。


「……何が起こってるんだ?」


 身体に変化はない。力が湧くわけでも、傷が治るわけでもない。ただ、確実に何かが起こっている。


「これは……良いことなのか、それとも……?」


 手を握ったり開いたりしてみるが、何の違いも感じられない。


「……深く考えても答えは出ないか」


 俺は新たな戦略を考えながら、もう一度洞窟の奥を見つめた。


「……この洞窟、何かおかしい」


 昨日倒したはずの魔物がまた現れた。普通なら、一度倒したらそれで終わるはずなのに、なぜか増えている。


「何か理由があるんだろうか……? それを知るまで、気を抜かない方がいいな」


 俺は洞窟の奥に足を踏み出した。

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