第3話:分身の使い道
夜が明けた。
冷え込んだ森の空気の中で目を覚ます。体は思うように動かず、全身がだるい。昨日から何も食べていないせいか、空腹がじわじわと意識を蝕んでくる。
「……腹減ったな」
自由になったのはいいが、村では少なくとも決まった時間に食事があった。それがどれだけ恵まれていたことか、今さらになって痛感する。
俺はのそのそと起き上がり、隣を見る。そこには俺と同じ顔をしたファシムがいた。
「お前も腹が減ってるか?」
「……少し動きが鈍い。食事は必要だ」
ファシムは俺と同じように空腹を感じるらしい。となると、昨日失敗した狩猟を今日こそ成功させなければならない。
「よし、今日は確実に獲物を仕留めるぞ」
俺は水場に向かい、顔を洗いながら考える。昨日の狩りは完全な失敗だった。獲物に気づかれ、逃げられた。ファシムを囮にしたが、突っ込んだだけでは意味がない。
「ただ突っ込むだけじゃ駄目だ……何か別の方法を考えないと」
水面を見つめながら、村で見たことを思い出す。覚醒者や戦士たちは狩猟の際、ただ獲物に突っ込むのではなく、罠を使うこともあった。
「罠か……」
俺は森の中を歩きながら、使えそうな木の枝や石を集め始めた。
「ファシム、お前は獲物を追い込めるか?」
「試してみる」
ファシムは頷き、静かに森の奥へと消えていった。
しばらくして——
「いたぞ。スピアラットだ」
俺の前に戻ってきたファシムが報告する。近くに昨日と同じスピアラットがいるらしい。
「よし、罠を仕掛けて、そいつを追い込め」
俺は木の枝と蔓を使い、簡易的な落とし穴を作った。深く掘ることはできないが、草をかぶせて見えなくすれば、小さな獲物なら引っかかるかもしれない。
「準備完了だ……ファシム、頼んだぞ」
ファシムは再び森の奥へと向かい、スピアラットを追い立てる。足音が近づいてくる。バサバサと草が揺れ、スピアラットが俺の方向へ向かってくる。
——ズボッ!
鈍い音がした。
「……やった」
穴の中に落ちたスピアラットが暴れている。すぐに飛びかかられないよう慎重に近づき、手にしていた石を何度も振り下ろした。
「ぐ……はっ、はぁ……!」
もがいていたスピアラットの体が動かなくなる。
その瞬間、何かが流れ込んできたような感覚がした。
俺は肩で息をしながら、その死骸を見下ろした。
「……なんだ、今の」
一瞬、何かが体の奥へと染み込んでいくような感覚があった。だが、それが何なのかはわからない。ただの錯覚かもしれない。
「……ついに、獲れたな」
ファシムが近づいてきて、じっとそれを見つめる。
「食料の確保、成功だな」
しかし、問題はここからだった。
「火がない……」
生のまま食べるわけにはいかない。火を起こす手段がなければ、この獲物を活かすことができない。
「どうする?」
ファシムが尋ねる。
「火を起こさなきゃならないが、道具がない……」
俺は周囲を見渡し、使えそうなものを探す。乾いた木の枝と石。それだけで火を起こすのは難しいが、試してみるしかない。
「ファシム、細かく削れる木の枝を探してくれ。できるだけ乾いたやつを」
「了解」
ファシムが森の奥へと向かい、俺も使えそうな石を探す。
——数十分後。
木の枝をこすり合わせ、火を起こそうとするが、なかなか火花が出ない。手が痛くなり、息が荒くなる。
「くそ……」
失敗の連続。それでも、何度も試すしかない。
「俺は……生きなきゃならないんだ……」
歯を食いしばりながら続けると、ようやく、小さな煙が立ち上った。
「……ついた……!」
ファシムと二人で協力し、ようやく小さな火を起こすことができた。
獲物をさばき、肉を火にかける。
焼ける香ばしい匂いが立ち上り、俺の腹がさらに鳴る。
「……こんなことで、こんなに嬉しいなんてな」
少し焼き上がった肉を口に入れる。
「熱っ……でも、うまい……!」
ファシムも静かに肉を噛みしめる。
「生き延びるためには、これを続けていかなくてはならないな」
「そうだな……」
空腹が満たされ、ようやく体に力が戻ってくる。
俺は火を見つめながら、考える。
「このまま森で彷徨うのは得策じゃない。そろそろ、長期的に使える拠点を探さなきゃな」
ファシムも頷いた。
「探索範囲を広げてみるか?」
「そうだな……まずは、安全な場所を探そう」
俺は拳を握る。
ファシムを活用し、より効率的な生存手段を考えていく。
——自由になるだけでは足りない。
生き延びるために、俺はこの力を徹底的に使いこなす。
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