これはありだろうか【KAC20255・三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」】第二弾

カイ 壬

これはありだろうか

 誰もが恐れる剣豪がひとり、茶屋で団子を食べていた。

「やはり春先に食べる団子はうまい。茶で口直しすればいくらでも食べられるな」

 近くの森に植わっている木々の若葉が目に優しい。茶屋のそばにある早咲きの桜を眺めながら、朗らかな心持ちで団子をひと口噛みしめる。

 これで午後に行われるトリの降臨祭の特等席を確保したといってよかろう。お昼を過ぎれば仲間たちがやってくるから、それまで席を温めていようか。


 すると、ゆっくりとした足取りで人が近寄ってくる。

「ほう、こんな朝早くから茶をしばいているとは、ずいぶんと優雅な武士だな」

 巨漢がひとり、小男がふたり立ち並んでいる。これはなんともわかりやすい悪人だ。そもそも俺の顔に見覚えはないのだろうか。

 いや、それよりも巨漢が担いでいる大きなものが気になるのだが。


「団子はいいぞ。お前たちも注文して食べたらいい」

「俺たちが食べたいのは貴様の肉だ」

 みすぼらしい着流しに身を包んだ小男ふたりは、それぞれ手に刀を持っている。

「人肉喰らいの餓鬼か。これは成敗せねばならぬな」

 脅して金を巻き上げる算段なのだろう。三人はいかにも凶暴な雰囲気を漂わせている。


 立ち上がって脇に置いていた刀をふた振り腰に差すと、今までとは打って変わった表情を浮かべてみせた。

「ほう、なかなかの面構えよの。俺たち三人を敵にまわして勝とうというのか。こざかしい」

「お前たちも刀を使うようだが、剣術ではこちらが上だぞ」

「ふん、この天下無双の喧嘩屋・鏡四郎は刀なぞ使わんわ。貴様にはこの布団ダンスでじゅうぶんだ」

 布団ダンスとはこれいかに。まさか狙っているのか。

「なぜそんなものを担いでおるのだ」

「喧嘩相手の棺桶代わりに持ち歩いておるのよ。貴様もこの布団ダンスにしまって桜の樹の下に埋めてやるぞ」

「その話しぶりだと、桜の樹の下には死体がいっぱい埋まっていそうじゃないか」

「だから小噺にもなるんだよ。そんなメタ発言はいいから、さっそく手合わせしようじゃないか」

「できれば、今日この通りに現れるというトリの降臨を見てからにしたかったのだがな」

「だからメタ発言はよせ。ではいくぞ」

 巨漢は布団ダンスを振り上げると機敏に叩きつけてきた。



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