君が支えてくれた心の隙間
俺は自分の事を好きになることができない人間だ。
勉強は平凡以下、運動も並み程、何か賞を取ったことも無ければ、誇れたものもない。
周りはできてる、すごいよねと話す親の言葉を何度聞いたことか。
勉強をしなければ比べられ、テストの点が悪ければ比べられ、部活で比べられ、能力で比べられ。
そうやって育ってきた人間のどこを好きになればいいのだ。
俺は今後一生に渡って関わってく人なんていないと思ってた、どれも一瞬の関係しか生まれないと。
そんなはずだったのにどういうわけか、大学で彼女ができたんだ。
「ねえ、私と付き合ってよ」
授業終わりの帰り道、君がそう言った時耳を疑った。
「ずっと気になってたけど、なんで俺なの」
「なんでって?」
「俺には何もないから」
これは俺の心に焼き付いてる言葉だ。
誰かの優しさを貰う度、心が苦しかった。
穴が開いてる俺の心はいくら優しさを注いでも満たされることは無い。
その気持ちは自己嫌悪の感情へと流れ変わっていく。
「俺は君に何もしてやれてない。君の優しさを貰うばかりなのに……。どうして君は俺なんかに優しくするの?」
本当は【俺なんか】とは使いたくない、これは相手の気持ちをないがしろにする言葉だと知ってるから。
それでも出てしまうんだ、俺は自分なんて好きになれないんだから。
「私が優しいことをするのはね、ただ君に貰った優しさを返してるだけなんだよ」
「俺があげた? いつ?」
「いつだなんて、貰ってない時を思い出す方が大変だよ」
「そんな事した覚えはないけど」
「それが君にとっての当たり前だからね。君は誰にだって当たり前のように優しいんだよ、傷つく辛さを知ってる君は無自覚に周りに優しさをあげてるの」
「でもだからって」
「君はそう思うかも入れないけどさ、実際に私は君の優しさに救われてるんだよ」
そう言うと君は僕の前に出て、指を折りながら話してくれる。
「受験の時受験票を拾ってくれた。迷ってた私を案内してくれた。忘れ物をした私に貸してくれた。疲れた私を気にしてくれた。いつも歩幅を合わせてくれる」
「そんなの当たり前のことじゃないの」
俺の言葉に、君は優しく微笑んで近づいてくる。
「私はさ、これを当たり前と思える君だから好きになったの。君が当たり前と思ってる行動ひとつひとつが私を嬉しくさせてくれるから」
俺の前に立った君はそっと俺の手を握り胸の前に持っていく。
「でもこれを君に伝えても君の心の隙間は埋まらないって知ってる」
君は大きく行きを吸い慈愛に満ちた表情で言ってくれた。
「だからさその心の隙間を私に支えさせてよ」
「支えるってどうやって?」
「君が十個自分の嫌いな所を言ったら、私が百個君の素敵な所を言う」
「百個も見つからないでしょ」
「それならさ見つけさせてよ。百個でも千個でも見つかるくらい、君の側にいさせてほしい」
そっと俺を抱き寄せる君、そのことに初めて心が満たされていった。
こんな俺でいいのかと今でも思うときがある。
俺よりもいい人はいるし、すごい人はたくさんいる。
それを伝えるたびに君は俺じゃなきゃダメな理由を教えてくれる。
そうやって過ごしてきたからか、最近は少しだけ、ほんの少しだけだけど。
自分を好きでいられる時間が増えてきた。
思いつきの世界 火花 @chikuwa_nerimono
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