私的な詩或いは死
rainscompany
私的な死或いは詩
『私的な詩 或いは死』/宮鳥甲
「月を撃った男」
気付けば漏れる独り言 世迷言
空見上げてばっか稀にぶつかりそうに
空綺麗ね それ口癖だね
星が落ちそう月が撃てそう
世迷言
聞かれてないよね
独り言
満月に咲く草花は色を失くした
「月が綺麗ですね」
何世代前からの綺麗事
もう言えないように僕は月を撃つ
一直線指先が遊び一人月を撃つ
片目でつけるアタリ月を撃つ
「入場無料カンパ制」
映像は嘘をつく、今がないから。
本当の瞬間はここにしかないもの
それは形あればこそ
残るものが在りし日々
最前より伺えば
なんて中身のない役者かな
緊迫の下手裏舞台
パンっと威勢の良い手拍子が
ゲネラールプローベ最高潮
血潮たぎれば 場は生きて
真空の上手裏舞台
息の詰まる幕開け 前評判蹴散らせ
熱情演技性自己評価表現者としてのプライド
一幕に詰め込んで
追い込まれれば 場は張り詰めて
震える脚を黙らせ 臆病蹴散らせ
1キロメートル先を見た
観客の視線 吸い込まれる音
糸で吊られたマリオネット
動けない 思うように 置き去りの脚本
スポットライト、羽虫が転がってた。
ト書きに裏打ちされた物思い
筋書き通りとは行かないよな
表彰状総評録画ビデオテープ
残るものだけが冗長
まばらな拍手の幕引きに、
パンっと威勢の良い手拍子が
「病めるχ」
シックシック
震えるだけ
シックシック
その薬取って
愛の形は歪なもの
ジグザクに弧を描こう
線を引くのも一苦労
計算違いでズレる グラフ
RE:RE:RE:リレーの続く限り
ラララ ラブソングは吃りには辛い
”病める日も健やかなる日も”とは約束しない
”安心しろよ”とも言えやしない
せめて緩やかなエッジを
終わるまでは続く線を 描ききりたいよ
私だけを 見て
理想の彼 理想の僕
息苦しくはないか 窒息してやしないか
やさしい嘘 プラシーボ
理想から離れ はなればなれ
その理想は幻想 二人の線を 点と点に戻そう
他愛もない会話 解は出さなければ
シックシック 特効薬を処方
「三千世界の鴉」
添い寝醒めれば 日も昇りきり 死んだカラスは 姿なし
こんなものかと 失望するが カラス不在の 三千世界
女は嫌う あの濡羽色 がなる声すら 今は恋しい
「さらさらと」
思い浮かぶ川があるでしょう
心に流るる川があるでしょう
変わらない毎日が流れてます
不変とした帰り道 不変とした河川敷
二つを重ねてみたが この道も今日で最後かもな
流るる音 感じてもなお
水に流せぬ想いがあるのでしょう
その時水面をみつめるのでしょう
この川に何を思うのでしょう
激流は不可逆
水源に戻ることはない
川は何れ途絶える
大海へと流れ出す
海へ接ぐ汽水域
流るる音!
拍動を感じるか 思い出したものは何か
あなたの川は澄んでいますか
「PS」
再放送同じ場面を幾千度
交通麻痺帰宅を通せんぼ
テレビが壊れた 社会が壊れた
ああじゃない こうじゃない
そういう間に間に合わない
高台から眺める街の臨終
無音で流れる一部始終
不通回線障害
呟き拡散 生存確認
名を売るミュージシャン
食料品は品切れ
桜咲く花見酒
自主規制
散るのを待つだけ
不便不謹慎不感症
無常無惨無味乾燥
笑顔絶やさない募金活動
デタラメバラ撒くボンクラ共
SFと見まごう生中継
IF「もし、たられば」で議論を中継
安全地帯他人事の日常
不謹慎に高揚 非充実にアクセント
インモラル されど日々は流るる
薄れゆく話題性
忘れゆく人間性
灯り隠した一枚のカーテン
PS 間に合わないだろう警告
「或いは死」
火葬場に昇る黒煙の あれぞ個人の副流煙
工場地帯煙突は あれは社会の副流煙
ようやく吸った最後の一本 これが僕の副流煙
汚れちまった肺は戻らないか
灰は煙草には戻れないか
曇天はじぃっとして静かに照らす
1/3の脅し文句
有効成分 残りの寿命
火を貸してくれ、湿気ないうちに。
今日はやけに煙が見えるな
ああ そろそろ近いのか
ジジジジと耳に残る 音
人も最後はタールと灰さ
私的な詩或いは死 rainscompany @rainscompany
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