あなたは襲ってくる魔物を猫に変えるトリ

三毛狐

第1羽

 城壁の上であなたが羽を一振りすると、緑色の軍勢が一掃された。

 森の奥から街へ迫るゴブリンだった群だ。


 それは速やかに猫の群へと姿を変える。


 眼下の緑の絨毯が、色とりどりの花を咲かせたようだった。

 白黒グレー茶白三毛キジトラ茶トラサバトラ……


 身体が縮み、ふわふわの柔らかな毛に覆われると、1匹1匹がその場で丸くなる。

 まるで布団でもあるかのような、すみやかな入眠。


 あなたによる強制的な変異で、体力を失ったのだろう。

 暫くは起きる気配がない。


「スタンピートが止まったぞぉ!」

「ひゅー、これがトリの降臨かぁ!」

「ゴブリンって本当にいたんだなぁ」

「た、たすかった……」


 周囲の人間達が喝采した。

 彼らのほとんどはゴブリンを見たことすらなかった。


 もしあなたが間に合わなければ、恐らく全滅していただろう。


 天下無双の存在であるあなたはトリと呼ばれている。

 人類はその慈悲にすがり、脅威から救われていた。


 あなたは一鳴きすると、座すべき天へと舞う。


 もうこの街へ迫る危機は去ったのだ。

 だから今度はそれをより多くの人へ届けるため、街の空を大きく飛ぶ。


 そのずんぐりとした姿をどうやって浮かせているのか判らない小さな羽で器用に風をつかみ体勢を維持した。


 救世主の姿だった。


 青い空に弧を描く。


 街中にはびこっていた絶望が薄れたのを感じた人から順番に空の希望に気が付いた。閉じこもっていた住民たちが窓から見上げて、あなたの姿を目撃する。


 常に最前線に居るあなたが上空を舞っている。

 その事実で助かったのだと理解する。


 家々のドアが開き、人々は抱き合い歓声をあげた。

 涙を流してあなたを称える。


「救われたんだ!!」

「トーリ! トーリ! トーリ! トーリ!」


 街のあちこちから音楽が聞こえ始める。

 噂に聞くゴブリンに恐れ、息を殺していた彼らが音を取り戻したのだ。


 音を楽しめる時間に、再び浸れるのだ。


 生き延びたのだと。 

 まだまだ命を味わえるのだと。

 様々な喜びが鼓膜を震わせる。


 人間達が地上でステップを踏むその上空で、あなたもまたくるんくるんと器用に舞った。


 トリの勝利のダンスだった。


 いくどとなく歓声があがる。


 生命の息吹はまだ枯れない。


 あなたがいる限り大丈夫だと人々は信じられた。



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あなたは襲ってくる魔物を猫に変えるトリ 三毛狐 @mikefox

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