蕎麦を探して
悪本不真面目(アクモトフマジメ)
第1話
得たいの知れない世界を歩いていると腹が減った。得体の知らない世界に飛ばされてから何も食べていなかった。腹が減る。そういえば俺は立ち食い蕎麦屋に行く途中にこの得体のしれない世界に来てしまったのだ。だから俺は蕎麦が食べたい。
その声に答えるようにハンバーガーが降って来た。俺はハンバーガーも好きだが、今は蕎麦が食べたいのだ。蕎麦を食べたい奴はハンバーガーを食べたい訳ではない。この世界は不器用だ。
ふわふわの床をずかずかと歩いていると、ぴょんぴょんとハンバーガーが跳ねてくる。ハンバーガーがペコリと俺にお辞儀をして挟まっているピクルスを前へと付きだし俺を誘っていた。
俺はふわふわの床を後にし、ざらざらの川を泳いでいた。幸いワイシャツは濡れなかった。この世界はそういう世界のようだ。バタフライで泳いでいると急に何かがへばりついた。俺は泳ぐのをやめて背中を手で確認する。するとご存じハンバーガーだ。しつこい、しかも一体ではない、十体以上がへばりついており、中にはとろーりチーズバーガーや、キングサイズのビックバーガーなどがあったが俺はそれを優しく剥がして、再びバタフライで泳いだ。先には滝があり、俺は滝に落ちた。
気絶をして、目が覚めると無数のハンバーガーが周りにいた。みんなバカ面で俺を心配そうに見ていた。そして小さいハンバーガーが俺の口の周りを歩き、口に入る機会をうかがっていた。俺は頑なに口を閉じていた。すると俺の右腕にとろーりチーズバーガーのとろーりを当ててきやがった。ものすごく熱く、声が出そうになったが俺は我慢した。そうはいくかと、そう思ったんだ。
俺はハンバーガーたちを一個ずつ手で持ち上げ投げて道を作り進んでいた。ハンバーガーたちは面白いように縦回転した。あまりにも面白かったから食べてやってもいいとも思ったが、もう引くに引けなくなっていた。昔から俺はそういうところがある。
なんとかハンバーガーを投げ終わり進んでいくと、突然地面から岩に刺さった剣がせりあがって来た。俺はそれをとろーりで火傷した右腕でやる気のない感じで引き抜いた。案の定簡単に抜けた。すると拍手が聞こえた。ハンバーガーの拍手だ。
ハンバーガー曰く、この世界はピンチなのだそうだ。ハンバーガー曰く、俺がこの世界を救うべきだと言っている。ハンバーガー曰く、蕎麦にこだわらないで俺たちで我慢しろとのことだ。ちなみに俺たちは蕎麦をよく知っているし、この世界にもその概念はあるとも言っている。
ハンバーガーは世界の中心と呼ばれる洞穴に案内した。奥へ行くと悪魔がサイコロをふっていた。俺が来るのを待っているかのようにだ。ニヤついていて、凄くむかついたので剣で切ってやった。すると真っ二つに切れた悪魔から黒いぐつぐつした血があふれ出た。俺はそれを思いっきり顔に浴びてしまった。熱い。俺はハンバーガーを手にして、パンのところで顔を拭いた。
奥へ行くと、さらに悪魔がいた、俺はそれを次々と叩き切っていった。その度顔にぐつぐつの黒い血を浴びてしまう。ハンバーガーのパンは黒く染まっていた。他のハンバーガーがそれを差別的な目で見ていた。もちろん目などはない、何せハンバーガーなんだから。
最奥地へ着くと光玉があり、これが世界だという。そしてそこには今までの悪魔よりやや大きい悪魔が光玉に触れて黒く染めていた。俺は悪魔に剣を振ろうとしたが、ふらふらと倒れてしまった。空腹だった。俺はそう、最初から空腹だったのだ。黒く染まったハンバーガーが俺の口元に来たが俺はそれを乱暴に払いのけて、別の綺麗なハンバーガーを食べた。もうそうするしかなかった。
「まずい・・・・・・」
俺は生まれて初めてこんなまずいハンバーガーを食べたことはなかった。なんでこんなまずいハンバーガーを食べないといけないんだろう。そう考えると俺は怒りと悲しさが混じり、もはや笑いたくなるような気分だった。俺はその勢いで剣を振るい、悪魔を真っ二つにし、ぐつぐつの黒い血を口を開けて受け止めた。決して飲み込みはせず。そして俺は黒く染まった光玉に剣を向けた。後ろでハンバーガーたちが叫んでいた。そして俺はそれを、細く切った。そうだ。俺はこの世界で、黒く染まった光玉で蕎麦を作ろうと考えた。後ろでハンバーガーたちはあっけに取られたらしく、ピクルスを次々と吐き出していた。
そして細く細く十割蕎麦のような、そうでないような、そんな蕎麦を口の中のぐつぐつの悪魔の血を出汁として食った。何も味はしなかった。
気が付いたら俺は食券を持っていた。そう世界を食ったから世界がなくなったんだ。
「番号札A-58番の方出来ました!」
俺は、かき揚げ蕎麦を手に取り食べた。
「ハァ~」
どうやら俺は腹がいっぱいなようだ。俺は生まれて初めて蕎麦を残してしまった。二度とこの店には来れないだろう。
蕎麦を探して 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615
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