Critical Footage13-3「浅き夢見し王道楽土」
『マイグラント、あとは世界樹の最上層で、あの剣を破壊するだけです。
そうすれば、この世界を縛る枠は崩れ去ります。
なぜ、そうなるかは……あなたが狂人であるならばよく分かると思います。
事ここに至って……例え、あなたが狂人でなかったとしても……そうすれば、そうなるものだと納得してください。
ところで……あなたは、私の目的の達成に、応じてくれますか?
……
言うまでもない、とでも言いたげですね。
ありがとうございます、マイグラント……
ではきっと……最後まで、共に行きましょう』
世界樹・最上層ギンヌンガガプ
武装を通常戦闘用に換装し、上昇を終えて最上層に再び到達する。円筒は変わらずそこに鎮座し、内部の剣が淵源の蒼光を放つ。
『では……』
こちらが軽いブーストで近寄っていくと、眼下の地表から、大群の白い蝶が湧き上がってくる。
『夢見鳥……!』
同時に円筒が床下へと格納されていき、こちらが着地すると不意に床全体が淵源の蒼光を放ち始める。現実だと言うのに視界と聴覚に凄まじいノイズが走り、眼前に白い光で象られた人間が現れる。
「
『これは……この世界に存在が固定されていない……!』
「いずれそういうものが現れるとは思っていたが、まさかお前が育てていたとはな。ならば……」
「ヴィゾヴニルを以て、お前たちを裁こう」
ノイズが収まり、
『これがアースガルズの頭目……!?』
「かかってこい特異点、お前がこいつの望む通りの例外か、この世界に沈んだ生命と同じ塵芥か。私が試してやる」
ヴィゾヴニルが自身の前方の空間を歪め、凄まじい威力の超極太光線を放つ。反射的に左にブーストして躱すと、あちらが左前脚を高く掲げて踏み込みながら振り下ろし、続けて右前脚を振り抜いて追撃してくる。後退ブーストから二段目を躱し、その瞬間に前進して強化パイルバンカーを溜めずにぶつけ、ヴィゾヴニルはまるで意に介さずにホバー移動で後退しながら右側に回り込みつつ、開幕と同じ超極太光線を90°ごとに設置して発射する。そちらも落ち着いて連続で躱すと、ヴィゾヴニルの額あたりから小さな円筒が現れ、それが広範囲にサーチしてこちらの周囲に追従する力場を生み出す。
『時限式の魔法陣のようです。落ち着いて、起爆する瞬間に回避しましょう』
ヴィゾヴニルは立ち止まり、四肢でしっかりと地面を捉えてから、前方に一気に九発の超極太光線を発射する。飛び上がって躱しながら、赫々たる炎を宿らせた弾丸を、アサルトライフルからフルオートで発射する。最初の数発こそ弾かれるものの、炎の勢いが強まって装甲を溶解し、ダメージを蓄積していく。ヴィゾヴニルは硬直から解放された瞬間に高く飛び上がってこちらの背後に着地し、恐らく目に当たるだろう部位から光を放ち、連続で光線を発射してくる。それに合わせて頭部近くの穴から光弾を連射して回避を困難にさせつつ、次いで魔法陣を起動する。斜め前に出て光線を避けつつ光弾の連射の切れ目を潜りながら魔法陣の効力範囲から逃れ、目の部分に連続で弾丸を当てて怯ませる。光線が一瞬止んだところで一気に詰め、フルチャージの強化パイルバンカーを頭部に捩じ込んで爆砕し、撃針を突き立てて吹き飛ばす。
ヴィゾヴニルは大きく飛び退き、一時的に停止する。
『マイグラント、警戒を……ノンチャージとはいえ、パイルバンカーで叩いて傷一つつかないボディです、一撃与えた程度で動作不良を起こすわけがありません……!』
「ルナリスフィリア……まさか、この機体のこの能力を使う日が来てしまうとはな」
ヴィゾヴニルから淵源を思わせる蒼光の粒子が沸き立ち、身震いさせながら脇腹を引き裂き、脚に似た意匠の腕が生える。
「ジェネレーター出力上昇。オペレーション、“
両腕を掲げ合わせ、その掌の狭間に白い蝶の群れが飛び込んでいく。
『くっ……!?時空間が歪み始めて……!?』
白い蝶が集って生まれた白い光の塊を叩き潰し、即座に両腕を広げて力を解き放つ。
オニャンコポン・カタカリ・タタリ
『マイグラント……大丈夫ですか……?』
一瞬視界が白け、やがて元に戻る。そこは夜の闇に包まれ、足下に薄く水が満たされた、ガラスのような足場だった。位置関係は変わらず、眼前には腕を解放したヴィゾヴニルが佇んでいる。
『空間を根本から捻じ曲げるなんて……どんな技術や魔法があったとしても、、出来るとは思えません……!』
「世界を変える権利を懸けて、お前と死合うとしようか」
ヴィゾヴニルは機械ではあるが咆哮しながら、四肢を強く踏み締めながら豪快に腕を振り回す。
『先ほどとは比べ物にならないエネルギーゲイン……!』
強化パイルバンカーをチャージしつつ、こちらが躱してもなおしばらく暴れて前進しながら向きを合わせて止まり、両腕を地面に打ち込んでから一気に直前上に引き伸ばしながら振り上げ、その奇想天外な攻撃に回避が遅れて掠め、地面に残された軌道が赤熱し、両腕を戻しながら掌を地面に向けてエネルギーを照射し、その反動で飛び上がる。続けて掌からエネルギーを連続で噴射して高度を稼ぎながら向きを合わせ、両腕を後方に向けて隕石のように地表へ突貫する。分かりきった動きを回避し、あちらが地面に着弾しながら腕を打ち込んでブレーキをかけながら、エネルギーの小柱をばら撒いて隙を潰す。そこに左肩の二連四連装ミサイルと右肩の六段三連装ミサイルを斉射し、プラズマと赫々たる炎が装甲面で弾け、小柱の爆発を正面から切り抜けながらチャージでオーバーロードして発火した強化パイルバンカーをヴィゾヴニルの顔面に叩き込む。猛烈な勢いで削り取りながら杭と撃針を一気に射出して突き刺し、爆風に包まれながら後退したヴィゾヴニルが両腕を掲げ、掌にエネルギーを凝縮してから地面に叩きつけ、連続で地面にエネルギーを注ぎ込んで衝撃波を飛ばしてくる。幸い、地表を走るだけに留まるそれを浮遊して避け、複数回衝撃波が向かってきた後に、大仰に力を注ぎ込むのが窺える。
『高エネルギー反応!回避を!』
フィリアの言葉に合わせてヴィゾヴニルが爆発し、全方位に大爆発が波濤のように進んでいく。こちらは飛び上がりながら生命エネルギーを転化したバリアで凌ぎつつ両肩のミサイルを撒き散らし、硬直したヴィゾヴニルの顔面を再びノンチャージの強化パイルバンカーで叩いて後退させる。やがて爆風が晴れ、ヴィゾヴニルの頭部だった部分には大穴が空いていた。
「単に強いだけでは有り得ないこの圧力……へレノールではなく、こいつを選ぶべきだったか」
突如として大穴から龍の頭が飛び出し、ヴィゾヴニルの身体を構成していた、機械装甲が剥がれ落ちていく。
『これは……!?』
姿を現した龍は首をもたげ、金属音のような咆哮で空を裂く。
白と黒の入り混じる特異な肉体に、焼き裂かれたような傷跡がいくつも刻まれ、それが淵源の蒼光を放って輝いている。
『この世界とは違う、異質な……言語化し難い何かを放っています……!』
「やれ、ヴィゾヴニル。今はまだ、結審を齎す時ではない」
ヴィゾヴニルが頭を引っ込めて強く力み、口端から白い光を漏らしながら、壮絶極まる威力の火球を吐き出してくる。瞬間的なブーストで躱すも、空中で火球が大爆発を起こし、左右に無限に続くかと思えるほど大きな連爆を起こしてこちらを地面に叩き落とす。
『なんて衝撃……!』
こちらはなんとか受け身を取って着地しながら、強化パイルバンカー用の赫々たる炎を体表に噴出させる。
「忌々しい宙核め。旧世代の亡霊風情が、未だに救世主気取りか。いい加減に、私とソムニウムに全て委ねてしまえ」
ヴィゾヴニルは両腕を地面に叩きつけ、蝶の群れを撒き散らしながら地面前方扇状に巨大な氷柱でいくつもの壁を生み出す。そのまま後脚二本で立ち上がり、天を仰いで紅雷をランダムに降り注がせてくる。
『この圧倒的な高出力、まさかミンドガズオルムと同じ……!』
こちらが紅雷を回避しながらミサイルとアサルトライフルで削っていくと、あちらは立ち上がったまま身を屈めて力を溜め、自らを抱きしめるように両腕と両前脚を抱え込んでいく。空間が震えるほどの力が沸き立ち、危機を察してこちらが反転しながらブーストで距離を離し、次の瞬間に壮絶極まる大爆発が起こり、氷柱の全てを消し飛ばしながら凄烈な衝撃波でこちらを焼き尽くす。体表から迸る炎で相殺しながら堪え、ヴィゾヴニルが姿勢をゆっくりと戻すところにアサルトライフルを連射しながら急接近し、掴みかかる右腕を避けて連続で後退し、ヴィゾヴニルは一瞬力んでから扇状に広がる火炎放射を放つ。合わせて前に出て胴体部から生命エネルギーと赫々たる炎を混ぜ合わせた衝撃波で打ち消し、押し込まれた火炎の誘爆を受けて怯みつつも、両腕を広げて淵源の蒼光を纏って蝶の翅を模した翼を生やして飛び立つ。
大きく離れ、首を下げながら凄まじい火力を凝縮してから噛み砕き、首をもたげてから一気に解き放つ。余りの超高火力によって炎が蒼を通り越して白く燃え盛り、地表を焼き尽くしていく。
『これ……は……』
フィリアの言葉が遠のくほどの空前絶後の破壊力がこちらを包み、だがそれでも赫々たる炎を噴出して堪えつつ、強化パイルバンカーのチャージを開始する。
『マイグラント……耐久限界……が……』
赫々たる炎を一気に噴出させ、その勢力を極限まで高めてヴィゾヴニルの胴体まで到達し、強化パイルバンカーを押し当てて杭の高速回転で削り取り、撃針を叩き込んで粉砕して爆発させる。蒼光と赫々たる炎がヴィゾヴニルの体内で喰らい合いながら暴発していき、腕が吹き飛びながら全身が弾け飛んで落下する。
世界樹・最上層ギンヌンガガプ
景色が元に戻るなか着地し、炎を体内に収める。
『マイグラント……良かった、途中で通信が途絶して……』
斃れたヴィゾヴニルから、白い蝶たちが次々に飛び立って宇宙へ消えていく。
「……」
『アースガルズの頭目……生体反応は消失しています』
「ルナリスフィリア……お前の、渡り鳥の勝ちだ……後はお前たちの意思を……解き放てばいい……」
間もなく、ヴィゾヴニルは蝶の群れとなって消滅する。不意の物音に振り返ると、格納されていた円筒が再び現れる。
それに接近して剣を掴んで取り出し、引き寄せる。
『その剣のこと……あなたは、よく知っていますね?そして私との……関係も。
ですが安心してください。これを壊しても、私は消えません。
準備が出来たら……破壊をお願いします』
剣を手放すと浮遊し、そして強化パイルバンカーのチャージを行う。間もなく撃針を射出し、剣を木っ端微塵に打ち砕く。砕けた欠片は更に千々に崩れていき、光となって消えていく。
『……』
同時に、地上から、全てを白く染めるほど大群の蝶が舞い上がり、後を追うように宇宙へと去っていく。
やがて、こちらの視界も白く塗り潰される。
『ありがとう、マイグラント』
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