Critical Footage13-2「決戦艦隊迎撃」

『マイグラント、状況を説明します。

 世界樹内部のガイア製薬の兵力は壊滅状態にあり、隊長格は全て撃破し、指揮系統を喪失しています。

 ですが、世界樹を目指して、ガイア製薬本社の大艦隊……俗に決戦艦隊と呼ばれる、制圧用の大部隊が侵攻してきています。

 ええ、正に大艦隊と呼べる戦力です……

 確認できるだけでも、駆逐艦級が数百隻、主力級戦艦が数十隻、その他巡洋艦級、空母級、空戦用特務機体も大量に……

 ……ふふ。

 マイグラント、楽しみですよね?

 彼らはあなたを排除し、世界樹を掌握するために向かってきています。つまり、全てあなたの敵なのです。

 そうと来れば……怨愛の修羅のデータが取れたときから、ずっと開発していた兵器を、遂に使うときです。

 あなたこそがこの世界の例外……荒れ狂う暴力を以て全てを焼き尽くす、滅びを齎す白い鳥だと、彼らに教えてあげましょう!』
























 世界樹・最上層ギンヌンガガプ

 トールたちの残骸が漂う中で待機していると、大型のドック付きのドローンが到着する。

『マイグラント、私の用意したこの……対艦用装備で、彼らに思い知らせてあげましょう』

 ドックに入り、用意された武装を手早く装備していく。それが完了するとドックが分解し、簡易的なカタパルトへと変形する。

『ガイア製薬決戦艦隊は現在、樹海浅部に到達しています。ええ……先制攻撃を以て、彼らの先鋒を粉砕してしまいましょう』

 深く頷いて返し、カタパルトから射出される。飛行用の大型ユニットを前後に装着して連結し、巨大ブースターで一気に推進して降下していく。

『魔力対流によって空気摩擦は極限まで低減されています。構わず大気圏を全速力で突破してください』


 世界樹・樹海上空

 瞬く間に雲を貫いて樹海まで舞い戻り、両肩の光波ミサイルを撒き散らしながら急降下していく。前方の空を埋め尽くすように大量の飛行軍艦と、ヴォジャノーイ、それ以外の空戦用特務機体が世界樹目掛けて進んでいる。

『前方に山猫を捕捉!攻撃を開始せよ!』

 こちらに向かってくる艦砲射撃や大型ミサイルの激流を、体表に帯びる魔力対流で相殺しながら、光波ミサイルの雨が次々に駆逐艦級の飛行軍艦を轟沈させていく。こちらの前に装着したユニットを分離しつつ、これまでに無い速度の前進で一気に特務機体の群れに突っ込んでいく。右手に持った脇差を振り回し、刀身が赫々たる炎で有り得ないほど延長され、一振りで特務機体の群れを瞬殺してしまう。まさしく鎧袖一触と言わんばかりの勢いのまま空母二隻ごと旗艦の戦艦を叩き斬り、無惨なスクラップになったそれらが樹海へ落下して爆発していく。

『今ので艦隊を一つ全滅させました!次は左右に一艦隊ずつ、奥に二艦隊展開しています!』

 その言葉を聞きながら籠手を嵌めた左手に力を集中し、遠目に見える艦隊目掛けて熱線を放つ。一瞬の静寂の後、熱線の軌道が凄まじい規模の大爆発を起こして全滅させ、続いて脇差のリーチを更に伸ばして十字に振り抜き、それだけで右に展開している艦隊も消し飛ぶ。

『なんだこれは!?どうなっているのだ!?』

 目前で繰り広げられる、余りにも現実離れした光景に対する慟哭にも近い通信音声が聞こえる。

『ふふ……派手に行きましょう、マイグラント。お客人は丁重にもてなすのがマナーです』

 前方に構える艦隊から濃密な弾幕で出迎えられながら、魔力対流と全身に滾る赫々たる炎で突っ切っていく。二つの艦隊のちょうど中間に突撃し、そこで赫々たる炎を爆散させて衝撃波とし、二つの艦隊を同時に消し炭に変える。

『これで五つ!残り半分です、マイグラント!』

 動揺が広がっているのか、明らかに艦隊の動きが鈍り始める。位置を進めずに、なるべくこちらを囲むように左右に展開していくようだ。

『マイグラント、最奥に位置している最大戦力の艦隊旗艦には、ガイア製薬の頭目、ガイアが指揮官として搭乗しているようです。これを叩き、撃墜とともに殺害してしまえば、二度とガイア製薬がここに来ることはないでしょう』

 その言葉を聞きながら、左手からの熱線で片っ端から全てを撃ち落としていく。

『あと少し……!』

 脇差の薙ぎ払いで前方に展開していた全てを薙ぎ倒し、最奥に控える艦隊へ突進していく。

『なるほど……それが例外の力かね』

 旗艦から、低く広がるような男の声が聞こえる。艦隊はワイヤーで何かを吊るして運びながら向かっており、ワイヤーの先には、過剰なほど巨大な人型兵器が佇んでいた。

『この通信はあの機体から……マイグラント、この声の主がガイアです』

 足の無いその兵器は、巨大な両腕でワイヤーを引き寄せて、艦隊を沈めながら戒めから解放されて浮上してくる。

「君のその力は、余りにも大きすぎる。それがあれば、我々の理想を叶えることも容易であっただろうに」

 ガイアは両手を上げ、指先を前に向け、そこから高出力のレーザーを放ってくる。こちらが上昇して回避すると、次は肩口と肩先からもレーザーを放ち、拡散しながら撃ち落とそうと荒れ狂う。

『過剰な火力です。制圧や勝利が目的なのではなく、破壊を最優先とする異形……』

 フィリアの言葉に続き、ガイアが言葉を紡いでいく。

「世界樹に閉じこもった生物を解放し、世界に再び撒き散らす。

 そうして荒廃した世界を、ひいては生命を救い出すために私は世界樹を目指しているのだ。

 君のように、無差別に破壊するためにここへ来ているわけではないんだよ」

 ブースターをガイアの頭上でパージしながら光線の発射口に当てて爆発させるが、あちらはまるで傷ついていない。

「無駄だよ、例外くん。君個人の力がどれだけ強大であろうとも、この機体には届かない」

 ガイアの機体はサイズからは考えられないほどの速さで浮上し、大きさ任せにこちらを両腕で捕らえて圧壊させようとしてくる。

「滅びを齎す白い鳥などと、自分を理外の存在だと自惚れているなら――」

『マイグラント、どうでもいい説教に付き合う必要はありません。決着をつけましょう』

 あちらの右掌を左手で握り返しながら引き裂き、両手を脇差でそれぞれ縦に切り裂いて脱出し、擦れ違いながら左腕を肩口から切断する。

「……!?」

 これほど激甚なダメージを受けるとは微塵にも思っていなかったのか、ガイアは聞こえるほど息を飲んで狼狽える。

「まだだ!まだ終わらんぞ!」

 ガイアの機体は胴体部が輝き出し、特殊な力場を広げていく。

『機体制御に干渉しています!自爆プロトコルを流し込まれて……!ミサイルポッドをパージしてください!』

 言うまでもなく両肩のミサイルを破却し、その力場の影響でこちらの魔力対流が消滅したことも悟る。

「自らを滅ぼすために戦って何になる!そんな愚かで憐れな存在に、我々の運命を勝手に裁定されて堪るか!」

『私たちは、私たちの望みのために戦っています。マイグラント、異なる道を進み、立ち塞がる敵は……全て、蹴散らしていきましょう』

 フィリアの声を聞きながら、空中で切り返し、ガイアの右腕を一撃で切断する。そのままガイアの正面へ向かい、脇差を胴体部のコクピット部分目掛けて投げつける。炎を帯びた切っ先が力場を紙のように引き裂いて胴体部に突き刺さり、かしらを左拳で殴りつけて貫通させる。

「おのれ……名前もないような、気狂いごときに……!

 滅びに胸を痛める心もないような、人形風情が……!」

 ガイアは怨嗟の声を喚き散らしながら、赫々たる炎による大爆発に飲まれて消え去る。飛んでいった脇差が自ら手元に戻り、戦闘が終結する。

『ガイア製薬決戦艦隊の全滅を確認。世界樹の最上層に戻りましょう』

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